陌伍 ページ12
今日もまた、木の陰から鍛練に勤しむ彼女の姿を見つめる。
日に日に上達している。それは自分の事のように嬉しくて、けれどもずっと遠い存在になってしまうようで、寂しかった。
…いい加減、この思いをどうにかして消さなければならないと分かっている。
幽霊が恋して報われる筈がない。もし彼女に知られてしまったら、心優しい彼女は困ってしまうだろう。
彼女は今真っ直ぐに頑張っている。だからこそ邪魔をするような真似だけは絶対に避けたかった。
ずるずると木に凭れかかって、地面に座り込む。
「大好きだった人、か。」
数日前、他の子供達に尋ねられ、そう答えているのが聞こえてしまった。
今でも忘れられない。
『大好きだった。誰よりも、ずっと。』
それは儚げで危うく、今にも砕け散ってしまいそうな表情だった。
そんなに想われていた奴がいるなんて。羨ましい、そう思ってしまった自分がいる事に気付いたとき、そのまま自分を殴り飛ばそうかと思った。
そしてそれと同時に、未だに俺は彼女の事を思い続けていたのだと思い知らされた。
…本当に、男として不甲斐ない。義勇の応援をすると決めただろう。
あぁ、それでも___
「浮かない顔をしているね。」
思わずビクッと体が反応して、反射的にその場から飛び退いた。
「もう、そんなに驚かなくていいのに。」
「す、すまない。考え事をしていて全く気付かなかった。」
しどろもどろにそう答えれば、頬を膨らませていた彼女は一気に肩を落とした。
「ごめんなさい、私が言った事を気にしているんだね。」
「え？」
「ねぇ、錆兎。義勇の事、無理はしなくて良いからね。」
違う、そうじゃない。いや、違わないけれども今悩んでいたことはその事じゃない。
狼狽える俺の姿を、不思議そうに彼女は見つめる。
けれども言える訳がない。Aの事を、考えていただなんて。
「…ねぇ、錆兎。聞いてくれる？」
「あ、あぁ。」
「これが、最後になるかもしれない。」
「え？」
「きっと近い内に最終決戦が始まる。私や義勇も戦わなければならない。
そうなった時に、どちらも無事に生きて帰れるという保証はない。」
あぁ、そうか。そういう意味なのか。
「だからこれがきっと最後だよ。見えるかどうかは分からないけれども、伝えたい事があるのなら、明日伝えるべきだと思う。」
薄紅色の瞳は、真っ直ぐに此方を見据えていた。
「後悔する前に。」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 126人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
酸漿(プロフ) - きなこ餅さん» 有り難う御座います。これから続編を書いていくので、そちらの方も是非お楽しみください。 (2019年10月20日 21時) (
レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
きなこ餅 - たくさん伏線がはられていて、読む度にドキドキします！ これからも更新頑張って下さい！ (2019年10月19日 21時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 神桜佳音さん» 嬉しいコメントありがとうございます(^-^)励みになります。これからもどうか宜しくお願いします。 (2019年10月13日 19時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
神桜佳音(プロフ) - ようやく納得しました…！話が深い…。辛い。けど、すごい好きです！無理されないで更新されてください！続き待ってます！ (2019年10月10日 19時) (レス) id: 78c574c661 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：酸漿 | 作成日時：2019年9月21日 18時
