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玖拾貳 ページ47

美味しい。


もっと口にしたい。欲望に身を任せて手を伸ばし、それを無造作に掴む。


「……百五か。早いな。」


百五。一体何の数字だろう。垂れた滴を拭い、再びかぶり付く。


「……そろそろ腹も溜まった頃だろう。」


少し張った腹を擦る。確かにこれだけ食べれば腹も満たされるだろう。


「……空翠、起きろ(・・・)。」


突然腕を引き上げられた。壱と刻まれた瞳に、呆けた顔をした自分の姿が映る。


「目は覚めたか。」


目を、覚ます?


反射的にごくりと呑み込んだ唾液は、何処か鉄臭い。


違和感を感じて、ぎこちない動きで後ろを見やる。


理性を失って理解が出来なかったその光景が、はっきりと目に映し出された。


あ、


反射的に口元に手をやれば、ぬめりとした感触に鳥肌が立つ。


「……やはりあの御方の呪いは凄まじいな。腹が満たされない限り理性を失い続ける。……お前はそのように作り変えられたのだ。」


嘘だ。その叫びは、ただ狭い部屋の中に木霊するだけだった。








「お前が入れ替わりの血戦を申し込んできた小僧か。確か元鬼狩りだったかねぇ?」


“暁”と刻まれた瞳が、面白そうに細められる。


「私は“記憶”を自在に操る。どれ、お前を見せてもらおうか。」


その瞬間、脱力感が全身を襲った。思わず膝を付きたくなる衝動に必死に耐え、刃を構えながら相手を睨み付ける。


「ほう、これはまた面白い! お前、あの暉峻一族の娘の弟子か。……ふむ、そうだな。うん、そうした方が面白いか!!」


鬼は笑って近寄り、俺の頭をつつく。


「お前さんの願いは、あの娘を救う事だろう。なに、そう驚くな。私は暉峻一族に固執している訳ではない。


私の力を、お前にやろう。代わりに見せてくれ、お前が望む未来を。」


「つまり、それは…」


「但し私の力を手に入れる事が出来るかはお前次第だ。最悪死に至るだろう。


さて、数百年人を喰ってきたこの体に、お前は耐えられるかな?」


…鬼になった時点で諦めかけていた。貴方の為に出来る事は自害する事が一番だと分かっていた。


けれどもそれは出来なかった。無惨に、呪いをかけられた所為で。けれども、


「俺が耐えられたら、貴方の称号も頂けますか?」


「勿論。俺の全てをくれてやろう。」


今 貴方を生かすその為に俺に出来る事が一つでも残っているのなら、


「耐えてみせます。俺に貴方を喰わせて下さい。」


俺は喜んで“暁”を演じきろう。

玖拾參→←玖拾壹



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山梨 - 素晴らしい作品をいつもありがとうございます! 続きを楽しみに待っています! (2019年8月26日 23時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - 分かりました。ありがとうございます! (2019年8月2日 17時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 零さん» 有り難う御座います。基本原作通りですが、どんどん活躍させていくので、これからも宜しくお願いします。 (2019年8月1日 0時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - すみません、作者様の漢字の読み方がわかりません。ひらがなで教えていただくとありがたいです。 (2019年7月31日 22時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
- 主人公の活躍が楽しみです。 (2019年7月30日 14時) (レス) id: 6ffd920b45 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年7月27日 16時

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