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捌拾伍 ページ40

内部は想像した通り、荘厳な造りとなっていた。至る所にきらびやかな装飾が施されており、贅の限りを尽くした城のようだった。


不気味な程静まり返る屋敷を執事に案内されながら、件の商人の後に続く。


伊黒さんと言葉は交わさなかった。ただお互いに、奥から漏れ出る鬼の気配を感じ取っていた。


やがて案内された広間に入れば、鍵が閉まる音がした。瞬時に目を走らせて、広い部屋の構造、そして隠れている(・・・・・)人間の数を把握する。


(全員で五人です、伊黒さん。)


(武器は銃だな。だが気配が上手く隠せていない。素人だ。)


指文字で合図し、ゆっくりと視線を上げた。


天幕に覆われ、影しか見えない。だが物々しい気配は其処から漂っているのは確かだ。


影はゆっくりと動き、石と石が擦れ合う様な音がした。


「やぁ、よく来たねぇ。」


優しさを含んだ、甘い声。


たったその一言だけで、びりびりと空気が揺れた。


間違いない、この男が“暁”だ。


「約束通り、美味しそうな人間を連れてきてくれたんだね。」


ひっ、と商人が息を呑む音がした。


「下がって下さい!!」


衣服を脱ぎ捨て抜刀し、刃を向ける。天幕の向こうで、鬼が細長い指でとんとんと頭を指したのが見えた。


「その赤い髪飾りを付けた女以外は殺せ。」


次の瞬間、彼が動いた。


「銃は好かん。」


たった数秒で隠れていた三人の男を無力化する。後は二階に潜んでいる二人を追って、彼は跳躍した。


私はただじっと天幕を睨み付けていた。布越しでまだ影しか見えない。


次の瞬間、


「今です!!」


鬼が右手を上げたのと同時に一斉に跳躍した。その時、地面から何かが突き出す。


鴉が言った通りだ。隊員が裂けた時、確かに地面から何かが一瞬で生えたのだと語っていた。


全集中・暉の呼吸 天菩比ノ舞


刃をぐるりと回して斬りつければ、それは崩れ落ちた。そのまま地面を蹴って、天幕の方に跳躍しようとして、






「お久し振りですね、__。」






鼻先が触れそうな程近い距離に男はいた。


“暁”と刻まれた瞳に驚いた私の姿が映る。


渾身の力を振り絞って刀を叩き上げるが、首を捻って容易く交わされる。


その瞬間、確かに男はうっすらと笑みを浮かべていた。


男は身を翻して再び天幕の中に消える。後を追えば、裏には真っ黒な通路が続いていた。


「隠し扉……!」


まるで来いと言わんばかりにぽっかりと空いた扉の先に、迷うこと無く足を踏み入れた。

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山梨 - 素晴らしい作品をいつもありがとうございます! 続きを楽しみに待っています! (2019年8月26日 23時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - 分かりました。ありがとうございます! (2019年8月2日 17時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 零さん» 有り難う御座います。基本原作通りですが、どんどん活躍させていくので、これからも宜しくお願いします。 (2019年8月1日 0時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - すみません、作者様の漢字の読み方がわかりません。ひらがなで教えていただくとありがたいです。 (2019年7月31日 22時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
- 主人公の活躍が楽しみです。 (2019年7月30日 14時) (レス) id: 6ffd920b45 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年7月27日 16時

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