捌拾肆 ページ39
「あぁ、どうしよう。」
「…もう出発の時間だぞ。どうした?」
「ええと、付けるかどうか迷ってまして。」
鏡の前で耳飾りを付け外ししながら唸っていると、ひょいと取り上げられてしまった。
「これは大切な物なのか?」
「…えぇ、大切な人から貰ったものです。」
「何故今更迷う必要がある? 何時も肌身離さず付けていたものなのだろう?」
その問いかけに答えられず沈黙する。
…もし私がこの戦いに負けて、鬼となってしまえば、顔向けが出来ない。
伊黒さんに返してもらった耳飾りを、そっと机の上に置く。
これは私の覚悟だ。
必ず討って、此処に戻ってくる。そして彼に逢いに行く。
ただ、と真っ赤な髪飾りに触れる。
これは、持って行こう。
「伊黒さん、出発しましょう。」
「…慣れないですね、この服。」
「安心しろ。俺も慣れていない。」
「動きやすさに問題はないんですが精神的に圧迫感があります。早く脱ぎ捨てたいです。」
「…我慢しろ。もう少しで屋敷に到着する。気を引き締めろ。」
「今回同行する隊員達は名を知られた優秀な子が多いですね。伊黒さんの継子はこの中に含まれていないんですか?」
「継子どころか弟子すら持ったことはない。今の隊員の質は悪過ぎる。」
「…それは伊黒さんが厳しすぎるだけでは。」
「そういうお前は優秀な継子が一人いると聞いていたが。今回は来ていないのか?」
「……殉死しました。」
「そうか。…すまない。酷なことを聞いたな。」
「いえ、私も未だに信じられないんです。彼は本当に優秀だったので。…煉獄さんの件もそうでしたが。」
「…それだけ上弦の力は恐ろしいということだな。まぁ俺達には関係無いが。」
「私達の代で終わらせる。そうお館様とも約束しましたものね。」
「その通りだ。…見えてきた、あれが鬼が潜む屋敷だ。」
馬車の小窓からそっと覗き込む。其処には、他を圧するが如き豪勢なお屋敷が鎮座していた。
下車し商人の後に続いて屋敷に入る直前、藤色の空にひっそりと浮かぶ月が目に映った。
煉獄さん、どうか見守っていて下さい。
薔薇の髪飾りにそっと触れて、屋敷の中に足を踏み入れた。
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山梨 - 素晴らしい作品をいつもありがとうございます! 続きを楽しみに待っています! (2019年8月26日 23時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - 分かりました。ありがとうございます! (2019年8月2日 17時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 零さん» 有り難う御座います。基本原作通りですが、どんどん活躍させていくので、これからも宜しくお願いします。 (2019年8月1日 0時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - すみません、作者様の漢字の読み方がわかりません。ひらがなで教えていただくとありがたいです。 (2019年7月31日 22時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
零 - 主人公の活躍が楽しみです。 (2019年7月30日 14時) (レス) id: 6ffd920b45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年7月27日 16時