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捌拾參 ページ38

「おい、準備は終わったか?」


声もかけず 襖を開け、入ってきたのは着流しに身を包んだ伊黒さんだ。


「はい、終わりました。最終確認をしましょう。」


筆を置き、座るように促す。彼が腰を下ろせば、肩に乗っていた蛇がしゅるしゅると私に巻き付いてきた。


複雑そうな顔でそれを見る伊黒さんに気付くことなく、優しく頭を撫でてやる。心地良さそうに目を細めるのを見て、自然と頬が緩んだ。


「…暉峻。始めるか。」


「あ、そうですね。確認しましょう。」


不動産から頂いた例の屋敷の地図を広げ、明日の計画を立て始めた。









「…よし、これで十分だろう。」


ことりと湯飲みを置き、暗くなった空を見る。もうすっかり日は暮れてしまっていた。


「はい、これで漸く休めますね。」


「…それでは、」


「ちょっと待って下さい。」


どうしても、彼に聞きたいことがあった。


「…何だ。」


真剣な目で、彼を見つめる。




「蜜璃さんとどこまで進んだんですか?」




「お、お前…!!」


「否定しないんですね。」


笑顔で返せば、彼は気まずそうに顔を反らした。


「…何故お前に話さなければならない?」


「良いじゃないですか。減るものじゃないですし。」


「…俺の矜恃(プライド)がすり減らされる。」


「え、本人に言っても良いんですか?」


「お前は鬼か。」


「いえ、人間です。ほら、ヘビ君を見て下さい。彼も『話したらどうだ?』って顔をしていますよ?」


鏑丸(かぶらまる)、お前…! 俺を裏切るのか?」


伊黒さんは信じられないようなものを見る目でヘビ君を見つめる。暫くの沈黙の後、何か諦めたかのような様子で彼は切り出した。


「…それで、俺がお前に話して利点(メリット)はあるのか?」


「蜜璃さんのハイカラ料理、食べたくないですか?」


「な、何…!?」


「今度二人で遊ぶ約束をしたんですよね。その時にぱんけーきというものを披露してくれるそうなんですよね。


あーあ、伊黒さんがどれだけ蜜璃さんの事を好きか分かれば、一緒に誘ってあげるんですけどねぇ。」


暫くの沈黙の後、彼は下を向いたまま小さな声で答えた。


「…俺の負けだ。」


「ふふっ、楽しみですね。」


「…そうだな。」


「その為にも明日、絶対に勝ちましょうね。」


「あぁ、必ず勝とう。」


例え待ち受ける相手が、かつて私の一族を虐殺した、悪逆非道の鬼であろうとも。


必ず、討つ。

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山梨 - 素晴らしい作品をいつもありがとうございます! 続きを楽しみに待っています! (2019年8月26日 23時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - 分かりました。ありがとうございます! (2019年8月2日 17時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 零さん» 有り難う御座います。基本原作通りですが、どんどん活躍させていくので、これからも宜しくお願いします。 (2019年8月1日 0時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - すみません、作者様の漢字の読み方がわかりません。ひらがなで教えていただくとありがたいです。 (2019年7月31日 22時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
- 主人公の活躍が楽しみです。 (2019年7月30日 14時) (レス) id: 6ffd920b45 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年7月27日 16時

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