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捌拾 ページ35

じりじりと距離を詰めていく。


刀を握る手に力を込め、足に意識を集中する。肺に酸素を取り込み血の巡りを速くし、次の瞬間 至近距離まで接近して刃を振り上げた。


全集中・暉の呼吸 天火明(アメノホカアリ)ノ舞


全集中・岩の呼吸 参ノ型 岩軀(がんく)(はだえ)


繰り出した技は全て薙ぎ払われてしまう。次の瞬間、投擲された鉄球が目前に迫った。


ぎりぎり交わして次は間合いの中に踏み込む。鎖が動きを止めようと絡み付くよりも前に、一閃を首に目掛けて、


甲高い金属音が響き渡った。


いつの間にか引き寄せた鉄斧で防がれた。速すぎる。あまりの重さに、そのまま力に負けて押し込まれてしまいそうになる。


私はまだやれる。全身に力を込め 押しかかる重圧ごと刃を振り上げた。


一瞬無防備になる胴体、其処を目掛けて思い切り両足で蹴りを入れる。一瞬よろめいた隙を狙って、刃を胴に向かって、


「そこまでだ。」


刃が胴に届く直前、ピタリと動きを止める。先程までの轟音が嘘のように辺りが静まり返る。ぽたりと汗が頬を伝った。


弾いた彼の鉄斧は、私の首にピタリと当てられていた。


「…引き分けですか。」


「あぁ、そうだな。引き分けだ。」


張り詰めていた緊張が一気に解けた。刀を納めて、どっと襲ってきた疲労感に身を任せその場に転がる。


「し、死ぬかと思いました。」


「私もひやりとした。あそこまで追いつめられたのは初めてだ。」


彼は仰向けに寝転がる私の傍に座り、ぽんぽんと優しく頭を撫でてくれた。


「強くなったな、暉峻。」


胸の辺りにじんわりとした温かさが広がる。その分厚く鍛え抜かれた傷だらけの手を、優しく握った。


「悲鳴嶼さん。」


「っ、…どうした、甘えたいのか?」


微かな動揺の後に、彼は優しげに口の端を上げた。


「はい、目一杯甘えたいです。存分に褒めて下さい。」


私には、己の弱さを見せれる人が中々いないので。


そのまま膝の上に座らされ、優しく頭を撫でられる内に眠気が襲ってきた。


そのまま彼の胸板に身体を預けると、子守唄の代わりか御経を唱え出した悲鳴嶼さんに心の中で突っ込みをいれつつ、次第に意識は薄れていった。






胸の中で静かに寝息を立て始めた、若い隊士の頬をゆっくりと撫でる。


「まだ幼いこの子に、全てを背負わせてしまうのは余りに酷い。」


空に浮かぶ月だけが男が嘆ずる(こと)を聴いていた。

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山梨 - 素晴らしい作品をいつもありがとうございます! 続きを楽しみに待っています! (2019年8月26日 23時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - 分かりました。ありがとうございます! (2019年8月2日 17時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 零さん» 有り難う御座います。基本原作通りですが、どんどん活躍させていくので、これからも宜しくお願いします。 (2019年8月1日 0時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - すみません、作者様の漢字の読み方がわかりません。ひらがなで教えていただくとありがたいです。 (2019年7月31日 22時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
- 主人公の活躍が楽しみです。 (2019年7月30日 14時) (レス) id: 6ffd920b45 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年7月27日 16時

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