漆拾玖 ページ34
「事前に予約していた暉峻です。小鉄様はいらっしゃいますか?」
「は、はいっ、少々お待ちください!」
どたばたと足音が聞こえる。慌てているんだろう。声からしてまだ子供のようだ。
たまにはこうのんびりしても良いだろうと、近くに設置されていたベンチに腰を下ろした。
梢の隙間を洩れて来る陽光が心地よい。思わず目を閉じて、柔らかな風に身を任せた。
「お、お待たせしました。え、」
ゆっくりと目を開いて、微笑みかける。
「予定より早く来てしまってごめんなさい。準備はもう出来ているかしら。」
「ふぇ、は、はいっ! 大丈夫です。早速始めましょう!」
何故か激しく動揺する彼にもう一度微笑みかけて、ゆっくりと立ち上がった。
「どうされますか? 何か重点的に鍛えたい部分はありますか?」
「取り敢えず速さに慣れたいので、まだ何もしなくて大丈夫です。後からお願いしますね。」
六つの刀を持つ絡繰人形と対峙する。顔が若干崩れてしまっているが、性能に問題はないのだろう。
「それでは、いきます。」
次の瞬間、それは動き出した。
六つの刀を自在に振り回し、襲いかかってくる。
…舞え。
流れるような動作で無数の攻撃を潜り抜け、人形の背後に回り、叩き上げて刀を一本吹き飛ばす。
あと、五本。
次は、一撃で二本吹き飛ばしてみせよう。
「…凄い。」
彼女の動きに釘付けになって、そんな陳腐な言葉しか出てこない。人は本当に素晴らしいものをみると、著しく語彙力が低下するのだと、改めて知った。
それはまるで、剣舞だった。
妖艶で、それでいて力強い。たった一振りだけで、計り知れない彼女の努力が垣間見える。
本当は、柱が来ると聞いてとても怯えていた。きっと厳しい人なんだろう、怒らせてしまったらどうしようとびくびくしていたのだ。
彼女を見るまでは。
息を呑んだ。
風に身を任せるように、柔らかな表情を浮かべて目を瞑る彼女の姿は、美しさを越えて神々しさまで感じた。
勿論優れているのは容姿だけでない。優しく、此方を見下すような態度も全く取らない。
そして今も、人形を傷付けぬよう最新の注意を払いながら戦っているのが分かる。
…柱って、案外良い人が多いのかもしれない。
この数ヵ月後、そう思った事を大きく後悔する出来事が起こる等つゆも知らずに、舞い続ける彼女の姿を 瞬きも忘れてじっと見いっていた。
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山梨 - 素晴らしい作品をいつもありがとうございます! 続きを楽しみに待っています! (2019年8月26日 23時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - 分かりました。ありがとうございます! (2019年8月2日 17時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 零さん» 有り難う御座います。基本原作通りですが、どんどん活躍させていくので、これからも宜しくお願いします。 (2019年8月1日 0時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - すみません、作者様の漢字の読み方がわかりません。ひらがなで教えていただくとありがたいです。 (2019年7月31日 22時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
零 - 主人公の活躍が楽しみです。 (2019年7月30日 14時) (レス) id: 6ffd920b45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年7月27日 16時