漆拾捌 ページ33
「ふぅ、良い湯加減ですねぇ。」
「そうだな。」
この温泉には確か“失恋の痛み”を治す効果もあると蜜璃さんがお勧めしていたなぁ。なんて他愛もない事を思いだしながら大きく伸びをする。
「まさか此処で貴方に会えるとは思ってもいませんでした。」
「…私も君に会うのは意外だった。
「いえ、新しい武器を作るよう頼んでいたんです。もう少しで完成するようなので、数日は此処に滞在します。」
「そうか、それならゆっくり休むといい。君は各地を飛び回っていて大変だとよく耳にする。休息も大切にしなさい。」
「……はい、御気遣い有り難うございます。先に上がらせて頂きますね。」
いけない、長湯をしてしまった。立ち上がりその場を後にしようとすると、呼び止められ 振り返れば、彼は白い双眸を細めた。
「君はもう少し恥じらいを持ちなさい。君は私が目が見えないことを知ってはいるが、私は男で君は女だ。せめて隠すようにしなさい。」
ぼん、と頬が一瞬で真っ赤に染まる。
「すみません、以後気を付けます。」
恥ずかしさから、逃げるようにその場を後にした。
「恥ずかしい…。」
赤く染まった頬を手のひらで抑えながら、階段を駆け下りる。…そういえば義勇と温泉に入った時も遠慮なく近付いてしまった。
流石にタオルで体は隠していたが、よく考えれば身体の形がはっきりと見えていただろう。通りであの義勇が赤面していた訳だ。…恥ずかしさで余計に熱が上がる。
こんな時は素振りでもして忘れてしまおう。早足で部屋に戻ろうとしたその時、面を付けた男が此方にどたばたと駆け寄ってきた。
「暉峻殿、捜しましたよ! 鉄珍様がお呼びです。」
「すみません、今行きますね。」
部屋に入り、急いで必要なものを準備して、男の後を追う。
呼ばれた理由を考える内に、先程の出来事等一瞬で頭から吹っ飛んでしまった。
いよいよ頼んでいたものが完成したということか。思わず上がった口角を手で隠す。
来るべき“暁”との戦いに勝つ為、そしてあの男を倒す為に必要となる重要な武器。
『“暁”と思われる鬼が発見された。刀鍛冶の里で休息後直ちに向かえ。』
最後の戦いが、始まる。
お館様から頂いた手紙は今も胸元のポケットの中にある。ぎゅっと胸の前で拳を握って、鉄珍様の待つ鍛冶場に足を踏み入れた。
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山梨 - 素晴らしい作品をいつもありがとうございます! 続きを楽しみに待っています! (2019年8月26日 23時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - 分かりました。ありがとうございます! (2019年8月2日 17時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 零さん» 有り難う御座います。基本原作通りですが、どんどん活躍させていくので、これからも宜しくお願いします。 (2019年8月1日 0時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - すみません、作者様の漢字の読み方がわかりません。ひらがなで教えていただくとありがたいです。 (2019年7月31日 22時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
零 - 主人公の活躍が楽しみです。 (2019年7月30日 14時) (レス) id: 6ffd920b45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年7月27日 16時