検索窓
今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:168,160 hit

漆拾捌 ページ33

「ふぅ、良い湯加減ですねぇ。」


「そうだな。」


この温泉には確か“失恋の痛み”を治す効果もあると蜜璃さんがお勧めしていたなぁ。なんて他愛もない事を思いだしながら大きく伸びをする。


「まさか此処で貴方に会えるとは思ってもいませんでした。」


「…私も君に会うのは意外だった。刃毀(はこぼ)れでもしたのか?」


「いえ、新しい武器を作るよう頼んでいたんです。もう少しで完成するようなので、数日は此処に滞在します。」


「そうか、それならゆっくり休むといい。君は各地を飛び回っていて大変だとよく耳にする。休息も大切にしなさい。」


「……はい、御気遣い有り難うございます。先に上がらせて頂きますね。」


いけない、長湯をしてしまった。立ち上がりその場を後にしようとすると、呼び止められ 振り返れば、彼は白い双眸を細めた。



「君はもう少し恥じらいを持ちなさい。君は私が目が見えないことを知ってはいるが、私は男で君は女だ。せめて隠すようにしなさい。」



ぼん、と頬が一瞬で真っ赤に染まる。


「すみません、以後気を付けます。」


恥ずかしさから、逃げるようにその場を後にした。









「恥ずかしい…。」


赤く染まった頬を手のひらで抑えながら、階段を駆け下りる。…そういえば義勇と温泉に入った時も遠慮なく近付いてしまった。


流石にタオルで体は隠していたが、よく考えれば身体の形がはっきりと見えていただろう。通りであの義勇が赤面していた訳だ。…恥ずかしさで余計に熱が上がる。


こんな時は素振りでもして忘れてしまおう。早足で部屋に戻ろうとしたその時、面を付けた男が此方にどたばたと駆け寄ってきた。


「暉峻殿、捜しましたよ! 鉄珍様がお呼びです。」


「すみません、今行きますね。」


部屋に入り、急いで必要なものを準備して、男の後を追う。


呼ばれた理由を考える内に、先程の出来事等一瞬で頭から吹っ飛んでしまった。


いよいよ頼んでいたものが完成したということか。思わず上がった口角を手で隠す。






来るべき“暁”との戦いに勝つ為、そしてあの男を倒す為に必要となる重要な武器。


『“暁”と思われる鬼が発見された。刀鍛冶の里で休息後直ちに向かえ。』


最後の戦いが、始まる。


お館様から頂いた手紙は今も胸元のポケットの中にある。ぎゅっと胸の前で拳を握って、鉄珍様の待つ鍛冶場に足を踏み入れた。

漆拾玖→←漆拾漆



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (119 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
266人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

山梨 - 素晴らしい作品をいつもありがとうございます! 続きを楽しみに待っています! (2019年8月26日 23時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - 分かりました。ありがとうございます! (2019年8月2日 17時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 零さん» 有り難う御座います。基本原作通りですが、どんどん活躍させていくので、これからも宜しくお願いします。 (2019年8月1日 0時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - すみません、作者様の漢字の読み方がわかりません。ひらがなで教えていただくとありがたいです。 (2019年7月31日 22時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
- 主人公の活躍が楽しみです。 (2019年7月30日 14時) (レス) id: 6ffd920b45 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:酸漿 | 作成日時:2019年7月27日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。