陸拾參 ページ17
投げ出される。
必死に伸ばされた手は、届かない。
「_______!!」
叫び声は風に掻き消され、直後叩き付けられた衝撃で意識を失った。
目を覚ました時、其処は見覚えの無い場所だった。薄暗く何もない、がらんとした部屋の中。埃っぽい匂いが鼻につき、思わず顔をしかめる。
夢を見ているのかと眼を擦ろうとして、じゃらり、という金属の触れ合う音が耳についた。
驚いて自分の体を確かめてみる。両手は頑丈そうな手錠で繋がれ、足枷を嵌められていた。
一体、何故。ゆっくりと記憶を辿ろうとする。だが、靄がかかったように思い出せない。
その時、ガチャりと音がして扉が開いた。突然差し込んだ光に、目を細める。
「__、_____!!」
其処には、同い年程の可愛らしい少女が 食事の入った籠を片手に立っていた。
彼女は嬉しそうに駆け寄り、必死に話しかけてくる。だが言語が違うからだろう。全く意味が通じない。
此処に来るまでの記憶が殆ど無いことを必死にジェスチャーで伝えれば、彼女は悲しそうに下を向いた。
「______。___________…」
数日かかって分かった事を、簡潔にまとめるとこうだ。
俺が乗っていた船が難破して、俺だけが生き残ったこと。当時この土地で異国人は珍しく、前例がない以上簡単に処遇を決めることが出来ないので、取り敢えず此処に保護されることになったこと。
その世話役に任されたのが、この地域の領主の娘である目の前の少女、梢だった。
保護する、といってもこんなに劣悪な環境で申し訳ない、と彼女は何時も悲しそうに下を向いていた。
確かに環境は最悪だった。足枷は外して貰えたものの、手錠は相変わらずつけていなければいけず、また部屋から出ることが出来なかった。
部屋には高い場所に窓が一つあるだけで換気も上手く出来ない。暑さや寒さを凌ぐ為の防具も置かれていなかった。
けれども、俺には梢がいた。
毎日三回必ず 食事を届けに訪ねて来てくれ、覚えてきた拙い英語で必死に話をしてくれた。
俺もそれに応える事が出来るように必死に日本語を覚え、次第に話せる内容も広がっていった。
少し窮屈で、でも確かに幸せな毎日。まだ幼かった俺は、この幸せな日々がずっと続くと信じて疑わなかった。
月日を重ね、使用人として働けるようになり 幾らか自由が利くようになった十五のある日。
「…ねぇ、何があったの?」
領主様に会いに行っていた梢が、身体中に包帯を巻いて帰って来た。
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山梨 - 素晴らしい作品をいつもありがとうございます! 続きを楽しみに待っています! (2019年8月26日 23時) (レス) id: 3d1d19266b (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - 分かりました。ありがとうございます! (2019年8月2日 17時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
酸漿(プロフ) - 零さん» 有り難う御座います。基本原作通りですが、どんどん活躍させていくので、これからも宜しくお願いします。 (2019年8月1日 0時) (レス) id: 511b02f073 (このIDを非表示/違反報告)
蝶華 - すみません、作者様の漢字の読み方がわかりません。ひらがなで教えていただくとありがたいです。 (2019年7月31日 22時) (レス) id: 70b9e10207 (このIDを非表示/違反報告)
零 - 主人公の活躍が楽しみです。 (2019年7月30日 14時) (レス) id: 6ffd920b45 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:酸漿 | 作成日時:2019年7月27日 16時