N ページ13
何故、彼女は。
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ノリス・グレイブス。
控え目な女性はニュートにそう名乗った。初対面はお互い多分興味がなくて、ぼそぼそとそれらしい質問をされては適当に返して。そんな不毛な時間を過ごしただろうか。
だから何故、「ドラゴンを旅に連れていってくれるのか」なんて問いだけは目を煌めかせて居るのか解らなかった。
その問いの答えに息を呑んで、それから震えた声で返事が返ってきたのにも驚いた。
「本当に?」と。
まるで迷子の子供みたいな顔をしていた。何でそんなに寂しそうなのかも解らなくて、結局それっきりになってしまったけれど。
ーーー彼女はグリンデルバルドの腹心だった。
グリンデルバルドの逮捕後だ。彼女の姿をしたマグルの死体が見つかってーーーいや、死んだマグルの姿を彼女が使っていた事が発覚した。ノリスなんて人間は、元々この世に居なかった。
死体の無惨な状態は魔法というより生きたまま食い千切られたそれで、悪の魔法使いの飼う怪物が正体であると真しやかに噂が流れた。
彼に忠実で、残酷で、人間ではないモンスターだと。
なのに。
フランスの魔法集会。
巧みなプロパガンダで「魔法使いの支配する世界」への憧れを高める観衆と、制圧を求める闇払いで衝突し、混乱した場内に彼女は居た。
何故か「ノリス」の姿で。
観衆が姿くらましをしたあとも、蒼い炎が辺りを取り囲み、阿鼻叫喚になった地獄の中でも、彼女はこちらを見つめてただポツンと立っていた。
最初は潜り抜けた後なのだと思っていたのだ。クイニーが服一つ燃やさず潜ってしまった忠誠の炎を。リタを呑み込んでしまった呪いの炎を。
……けれど、違った。
ちりちり、手のひらが燃えている。黒いドレスも髪の毛も顔も、焼けたそばから炭になる。
「なんで、ッ」
思わず声をあげれば彼女は微笑む。
ぐにゃりと突然体の形が歪んで、黒い髪がブラウンに変わった。瞳は黄色く、頬には鱗が現れて、女性の姿は「少女」になった。背中にある羽はすでに焼けて朽ちていたけれど。
「……私もぜひ一緒に旅がしてみたかったわ」
そこで気づいた。あの時の自分の答えは一体、彼女にとってどんなものだったのだろうか。
ドラゴンめいた少女は無邪気な笑顔で炎を抱いた。彼女の姿はボロボロと崩れて、呆気なく消える。本当の名前すら聞けなかった彼女の、声が。
『そうしたらきっと幸せだったの』
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みかこ(プロフ) - アバンギャルド・マボさん» 神から神託を頂いた……だと……?ちょっと間あけてツク開いたら神のお言葉頂いてて平伏しました。やべぇ(語彙力消失)自分が逆立ちしても思いつかなかったアイデアで脳ミソが革命起こしてますどうしよう。絵なり文なり何かしらで形にしたいです好きです(一息) (2019年11月12日 20時) (レス) id: 3d953e5ca0 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - (絵本にもなっていて、優しい絵柄で読み聞かせのたびに親の涙腺を殺してくる感じの話だったり…。ニュート自身が彼女の恋心に気がついていたかは別として、朴訥と見たままに書いているので、読む人には「ああ…」ってわかっちゃうアレです。(狼王のロボポジ) (2019年11月7日 19時) (レス) id: b4015b5421 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 完全に妄想なのですが、ニュートスキャマンダーが唯一書いた児童文学に、「Dragon girl」があったりしたら…と思っちゃったりしてます。 (2019年11月7日 18時) (レス) id: b4015b5421 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みかこ | 作成日時:2019年10月26日 10時