Dragon girl【ファンタビ】

エルンペントと求愛 ページ37

◆◇◆



何の変鉄も無い茶色の小瓶から、つんと強烈な刺激臭が鼻を突く。


ムスクの原料は生殖と関係ある場所から取れる訳だけどこの匂いって──メラはそこで考えるのを止め、瓶を渡されたジェイコブからは少し距離を取った。


「だいたい何でフタ捨てちゃうの、マスターって」


盛りの時期の動物の行動は予想がつかない。不測の事態からジェイコブを守れるようにこちらに残ったのは良いけれど、それなら原液は渡さなかった方がいい気がする。……フタまで開いてるし！


メラの今さらな発見も時すでに遅し。ニュートはエルンペントを相手取り、ムスクを塗り付けて───吠えた。


動物の真似でもするように深く腰を落として、ゆらりゆらりと大きく動く。大型動物の視線を引けるよう、時にトリッキーな動作を交えて。


ぽかんと彼の──良く言えば「一風変わった」、悪く言えば「かなりの奇行」を見ていたジェイコブの視線がちらりとメラに向く。なんとも説明の仕様がないので「求愛ダンス」と答えた。


「結構有効みたいなの、あのダンス……あ、ほら見て。もうちょっとであの子、鞄に入りそう」

「……わぁ」


エルンペントが何を言っているかは、あんまりロクでもないので割愛するが……意中の相手の動き真似をし始めたのはニュートの思惑通りだ。後少し、後少しで鞄の入り口に吸い込める距離まで来たと思われた───次の瞬間。


隣のジェイコブから目眩のするような激臭が立ち上った。それはまるで、瓶の中身をぶちまけたような───


「……ウソよね？」

「メラ……これ、マズい？」


愉快そうな笑い声を発するオットセイが逃げていく。床に転がる冷たく凍った魚の死骸。ジェイコブに染み付いたムスクの匂いを、空気が無慈悲に拡散していく。


向こうに居るニュートとメラの目が合った。二人とも焦りを視線で交わして。──これは間違いなく不測の事態(まずった)！


「マズいに決まってるわよ」


エルンペントの熱を帯びた視線がジェイコブを捉えた。迷い無く突進してくる、寸前の。

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