Ep.36 個として戦う者 ページ36
逡巡の時間は十秒にも満たなかった。
「……いいだろう」
安室がそう答えれば、Aは「そりゃよかった」と単純な笑顔を見せる。
「だがその条件提示にどれほどの意味がある? 君が協力者であろうとなかろうと、不都合があればいくらでも邪魔はさせてもらうつもりだ。実質的な行動範囲は変わらないと思うが……」
「充分! っていうか……邪魔できると思ってる?」
「してやるさ。君だけが情報のエキスパートなわけじゃない」
「あはは。ま、とにかくこれで契約成立ってことだよね! そうと決まったら私もやることがあるし、一旦ここらで解散としようか!」
「あっ、ちょっと……待って! Aさんはこれからどうするの!?」
「え? これから?」
「ボクやFBIの人たちを利用するために近付いてきたのは分かったけど……それがご破算になった代わりに別の手も用意してるんでしょ?」
「いいや? キミの存在を知ってからはずっと江戸川くんありきで動いてたから、別の手っていうのは特に……。うーん、確かにそこはちょいと困りものなんだよなあ」
「えっ、それって……」
「ま、けどよかったよ。キミは私が思ってたよりずっとたくさんの手を持ってるんだね」
それは一瞬だったが、妙に優しい表情だった。どこか懐かしみのような、けれど一抹の悲哀をうっすらと滲ませているような、独特な雰囲気。
「……Aさん?」
「じゃ、私は情報工作に入るから! 二人とも、なんかあったら連絡よろしく!」
が、その直後には生き生きとした様子で、軽く手を挙げながら通りへと姿を消してしまった。
「今の……妙だよね」
「うん、他の手をまったく用意していないってことは、彼女の“仕返し”にコナンくんの存在は必要不可欠だった……いや、むしろ君をきっかけに行動を起こし始めたのかも」
「でもどうして? かつて協力関係にあった公安警察や、組織を追っている他の機関でもなく……」
「まあ、案外シンプルな話かもしれないけれどね。たまたま目に付いただけとか、あるいは君が間接的に彼女の力になっていたことがあったのかもしれない」
歩き出す安室にコナンが続く。
確かに、ありえないことではない。けれど……その真相を知るには、本人の口から聞くより他にないだろう。
「(……ひとまず、これで彼女に関しては確定した)」
情報屋・AA────彼女もまた、黒ずくめの組織の被害者であり、個として戦う者だったのである。
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上坂 - 夢主好き💛 (2023年1月19日 21時) (レス) @page14 id: f311cd81c1 (このIDを非表示/違反報告)
泉 - 夢主好き💜 (2023年1月4日 18時) (レス) @page32 id: 5bd30ec6cb (このIDを非表示/違反報告)
なぎ(プロフ) - ( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆(エモジシクジッタタメサイソウイタシマス) (2022年12月13日 3時) (レス) id: 6fdcf214e0 (このIDを非表示/違反報告)
なぎ(プロフ) - おめでとうございます!!!!!( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆ (2022年12月13日 3時) (レス) @page25 id: 6fdcf214e0 (このIDを非表示/違反報告)
なぎ(プロフ) - はじめまして!ほろにがクラゲ★様いつもの楽しみに読ませていただいております。本当にコナンの世界に出てきそうな感じの夢主さんでこれからの展開にワクワクしております。卒業試験頑張って下さい!! (2022年12月1日 15時) (レス) @page13 id: 33a5069289 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年11月25日 16時