Ep.37 病院 ページ37
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──────……。
痛い。
身体が痛い。
手が、足が、背中が、頭が──……体じゅうのそこかしこが鈍く痛む。
いったい何が……いや、たしか……。
「……ッ!」
思い出すと同時に目を開いた。全身に鈍く感じていた痛みが刺すように鋭くなる。
だが背中の感覚は柔らかく、暗くも眩しくもない視界の端にカーテンレールが見える。
「(……ああ)」
病院か。ふっと力が抜けた。
口元を覆う酸素マスク、動かない手足、包帯だらけの身体……我ながらずいぶんな大怪我だ。
意識を失う前、私は情報屋の仕事をしていたはずだった。
依頼を請けたときから危ない案件だと思ってはいたけれど、想像以上の相手だったようだ。あの連中が相手じゃ依頼主も今頃生きてはいないかもしれないな。
今回は相手の力量を見誤ったのが悪かった。途中で罠を踏んだことに気付いたが時すでに遅く、逃げようとした矢先、全身黒ずくめの男たちが姿を現した。
二人組だった。片方は長い銀髪、片方はサングラス。
鬼ごっこの果てに、私は肩を撃たれて建物の窓から地上へ落ちた。それからの記憶はない……ということは、その後ここへ運び込まれたのだろう。
……でも、あんな
たとえ通行人が発見して救急車で搬送されたとしても、奴らがそれを見逃すはずがない。この大怪我では少なくとも数日は目を覚まさなかっただろうし、その間に搬送先を突き止められて殺されているはず。
「(……いったい、何が……?)」
とにかくなんとか動く左腕でナースコールを押し、それから私の入院生活が始まった。
私の怪我の状態は想像以上にひどかった。あちこちの骨が折れていて、マトモに歩けるようになるまでは半年以上の時間がかかるかもしれない。幸いなのは脊髄に損傷がなく後遺症の残る可能性が低いこと。
最初はまるで何も出来なかったが、そのうち点滴の数が減り、病院食が始まった。
病院食は味気がないと言うけれど、目を覚ましてから初めての食べ物を口に入れた瞬間、強烈な違和感をおぼえた。
火傷しない程度の熱さ、でんぷん質のベタつき、口の中でどろりと崩れる食感。予想できる感覚の中で唯一、あるはずの味がない。
粘性の「何か」が口内を満たしている。粘土を食べているようで気持ちが悪い。
そのとき、私はすでに────味覚を失っていた。
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上坂 - 夢主好き💛 (2023年1月19日 21時) (レス) @page14 id: f311cd81c1 (このIDを非表示/違反報告)
泉 - 夢主好き💜 (2023年1月4日 18時) (レス) @page32 id: 5bd30ec6cb (このIDを非表示/違反報告)
なぎ(プロフ) - ( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆(エモジシクジッタタメサイソウイタシマス) (2022年12月13日 3時) (レス) id: 6fdcf214e0 (このIDを非表示/違反報告)
なぎ(プロフ) - おめでとうございます!!!!!( ^-^)ノ∠※。.:*:・'°☆ (2022年12月13日 3時) (レス) @page25 id: 6fdcf214e0 (このIDを非表示/違反報告)
なぎ(プロフ) - はじめまして!ほろにがクラゲ★様いつもの楽しみに読ませていただいております。本当にコナンの世界に出てきそうな感じの夢主さんでこれからの展開にワクワクしております。卒業試験頑張って下さい!! (2022年12月1日 15時) (レス) @page13 id: 33a5069289 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年11月25日 16時