Ep.130 強いて言うなら ページ30
後ろから足音が聞こえるのには気付いていた。
想像と違ったのは、それが元気な子供たちのものでも、大人のそれでもないということ。
「……意外だね」
通路は海に面しているが、月の光よりも、壁に取り付いたオレンジ色の照明が眩しく足元を照らしていた。
「まさか灰原さんまで来てくれるなんて」
「別に。吉田さんの代理よ」
やたら素っ気ない返事に少し笑う。
そこにいたのは、コナンと灰原の二人だった。
「……しかし随分なやり方じゃねーか、中森警部なんかちょっと固まってたぞ」
「そこまでじゃないと思うけど」
「自覚なしかよ……?」
「まったく……とにかく来なさい、手当てしてあげるから」
「いや、これくらい本当に大丈夫だよ。処置道具持ってるし」
「何? 私の治療じゃ不満だって言うの?」
「気持ちだけで十分有難いよ。だから痕にはならないように自分で気を付ける。傷口を洗って、湿潤状態を保って、治ってからも紫外線対策して」
「そこまでする気があってどうしてあんな真似するのかしら……」
ため息をつかれる。
どうして、か。どうしてって程でもないけど、強いて言うなら……。
「手っ取り早かったから?」
「合理主義なのね」
「はは、どうかな。ちょっと焦ってただけかも」
「焦ってたって……何に?」
「それは……個人的な都合。それよりみんなのところに戻った方がいいよ。夏でも海風で冷えるし……夜は危ないからね」
「……」
「じゃあ、二人ともおやすみ。また明日」
特に制止される様子もなかったので、そのまま手を振って私は部屋へ戻った。
そっと傷口に触れる。まだ血が滲んでいた。
「服に付かないように気を付けないと……」
───────────
「……で、いったい何が気になったんだよ。灰原」
「何が? さっきも言ったけど私は吉田さんの代わりに……」
「バーロ、気になってなきゃわざわざ様子なんか見に来ねーっての」
「……そうね」
「もういいのか?」
「ええ……よく分かったわ。彼女は壊滅的なまでに人を頼るのが苦手だってことがね」
「……オメーが言うかよ、それ……」
生ぬるい海風が吹き抜ける。
その夜、船は静かだった。
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ほろにがクラゲ(プロフ) - 莉久さん» わーありがとうございます❗無理なく書いてるものなので、無理なくお楽しみいただければ嬉しいです٩(*´∀`*)۶ キッド様のキザさ、出せているでしょうか…!?🙄(不安) (2022年8月29日 18時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
莉久 - こんにちは!なかなか時間が取れなくて、ちびちび読んでたんですけど、めっちゃくちゃ面白いです!素直に言って好きです。大好きです。コナンとも打ち解けて、……これからの展開が楽しみです!キッドがキザッ!好きッ!忙しいとは思いますが、更新頑張ってください! (2022年8月28日 16時) (レス) id: 28e45e7c9c (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - サワーさん» わわっ、最初からずっと…!お付き合いありがとうございます!お飲みくださる方々に楽しんでいただければそれが何よりです、最後まで頑張ります!💪 (2022年8月26日 17時) (レス) id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
サワー(プロフ) - ずっと最初から読んでいた小説がついにクライマックス…!これまでずっと書き続けてくださってありがとうございます!これからもご自身のペースで無理せず書き続けて頂ければと思います!私も毎回楽しみにしています! (2022年8月25日 22時) (レス) @page45 id: fbf43580c0 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 推しの財布さん» コメントありがとうございます!段々ややこしくなってきてしまったなと心配していたのでお褒めの言葉とっても嬉しいです…ε-(´∀`*)✨ (2022年7月24日 22時) (レス) @page31 id: 5ce108a39e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2022年3月11日 12時