Ep.86 恨まないよ ページ36
夕闇の街を車が駆け抜けてゆく。
悠長に車窓の外を眺めているが、今私は絶対に連行……否、拉致されている。
チラリと運転席の安室さんを見た。気付かないふりなのか、じっと前を見たまま。
小さく、聞こえないように、溜め息を吐き出した。
「……安室さん。私の家、こっちだったっけ」
…なんか言えよ、話進まねぇだろ。
「あと、あなたに名前を教えた覚えはないけど」
「ええ、僕も貴方からは聞いた覚えがありませんから」
「……ねえ、安室さ」
「すみません、Aさん」
車がトンネルに入った。オレンジの光が車の中を流れていくのに気を取られた、その時。
鼻から口を覆われた布切れから、明らかに直接吸引してはいけない匂いがした。
瞬間、視界がくらむ。
「…っ……!」
「これが僕の仕事なんです。……恨みに思わないでくださいね」
空気に膜が貼られたように、全ての音が遠のく。冷たい、『バーボン』の目が映った。
コノヤロウ……ああもうなんか憎まれ口叩いてやんないと気が済まない。でもこんな頭で気の利いたセリフが思いつくわけもなく。
ただ思い浮かんだその一言を、呟いた。
「……恨まないよ……」
親友に約束したのだ。
絶対、殺されてやるものか……──
死角となる方の手に握った携帯が、滑り落ちた。
___________
座席に沈んだ彼女を横目で見て、意識がないことを確認する。
橙色の灯りが点滅しながら彼女の顔を照らし出していた。
(……やはり、この子は知っていた。『安室透』が組織に潜り込んだ警察組織のスパイだと)
でなければ、この状況であんな言葉が出てくるはずがない。
組織の男───バーボンは、何事も無かったかのような顔で前に視線を戻す。
黒の組織幹部、その正体は公安警察の諜報員。
この国と人々を守る彼らだが、時には合理性を取らなければいけない時がある。
────100の人々を守るには、1の犠牲が必要なのだ。
今、自分が疑われて殺されるわけには行かない。組織に噛み付こうとしている自分の立場を、彼はよく理解していた。
……それでも。
理解していても。割り切ったつもりでも。
正義を生業とする彼にとって、少女をこのまま見殺しにすることはあまりに難しすぎた。
「…………頼むから、死なないでくれよ」
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凛 - 絵上手いですね!話も面白いし! (2018年5月5日 11時) (レス) id: f39fd1d36e (このIDを非表示/違反報告)
桜ひかり(プロフ) - えっ!嘘だろ千世ちゃん!いつも楽しく読ませてもらってます!更新楽しみにしてます! (2018年2月18日 0時) (レス) id: 26cba6f424 (このIDを非表示/違反報告)
ねこ(プロフ) - 続きが気になる! (2018年2月17日 14時) (レス) id: e15058c5ad (このIDを非表示/違反報告)
星鴉(プロフ) - 面白いです!!続きが気になります!!更新楽しみにしてます! (2018年2月17日 11時) (レス) id: 3edde29704 (このIDを非表示/違反報告)
優(プロフ) - 続きが気になります! (2018年2月16日 10時) (レス) id: 229e64c922 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ほろにがクラゲ | 作成日時:2017年10月18日 11時