Ep.9 指輪 ページ39
エレベーターが開いた先には、夜に包まれたスカイデッキが広がっていた。青白い月明かりがひどく神秘的で、都会の明るさから遠く離れた天空の船には雑音や余計なものを全て遮断した静謐が立ち込めている。
微かな機械音とともに、背後でエレベーターが閉まる。Aは声をかけた。
「成果はどう？」
数段高くなったステージの真ん中で、キッドは月明かりに「天空の貴婦人」をかざしていた。少しの間そうして宝石を凝視していたが、そのうち目を瞑って腕を下ろした。
「ダメだな。ま、透けるワケねーか……」
「じゃあ貸して」
差し出した華奢な手のひらに青い指輪が置かれる。Aはそれを、左手の指輪に近づけて目の前にかざした。
親指の小さな石は夜の深い藍色と、青みを帯びた月光をわずかに反射して背景に溶け込んでいる。宝石をそばに寄せればラピスラズリの瑠璃色と細かな金の粒をその箱庭の夜に映し出す。
バイオレットの瞳がじっとそれを捉えるのを、怪盗キッドは絵画を眺めるように沈黙して見詰めた。
「……うーん、こっちもハズレかな……」
「そうか……」
「しっかし、やっぱ無駄にリスキーに思えてならないんだよね……『鈴木A』なら、鈴木財閥相談役の手に入れた宝石を見せてもらうくらいわけはないのに」
「室内で見られるだけで、持ち出せはしないだろ？ その指輪の"共鳴"も、"パンドラ"を探すのにも月明かりが必要だからな」
「そうね……」
まるで興味を失ったように指輪を手の中で転がすA。つまらなそうな伏し目の表情。
キッドよりも身長はいくらか低いが、十把一絡げの雑誌モデルよりはバランスのいいスタイル。すらりと伸びる細い手足が、月の淡い光に照らされて幻想的な存在感を放っていた。
「……ま、いっか。せいぜい次のビッグジュエルに期待しよう」
「あ、ああ……。そうだな……」
───────ピンポーン。
夢のようなぼんやりとした空気を裂いて軽快な音が響く。Aはぎょっとしてエレベーターを振り返った。
「え？ ちょっ、ええと……、」
その扉が開く直前、Aは何を思ったか身を翻しショーケースの土台の裏に隠れてしまった。それも指輪を持ったままだ。
しまった、と思ったときには扉は開いていた。光の筋が徐々に広がり、浮かんだシルエットは戸惑いを見せながらエレベーターからフロアに一歩を踏み出した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 233人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ほろにがクラゲ(プロフ) - 美桜琉さん» ありがとうございます！完結しました！よかったです、今回は特に私の自己満だったので、楽しんでくれてる人いるかなー？って心配で…ホントですか！過去編！か、書いてみようかな？？ (2019年9月22日 21時) (
レス) id: 9807b016db (このIDを非表示/違反報告)
美桜琉(プロフ) - 完結おめでとうこざいます！ほんっとに最高でした！！過去編マジで見たいです…！ (2019年9月22日 21時) (レス) id: 95c48d4791 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - パシェロさん» ひゃあありがとうございますー！できるだけ映画に沿えるように…物語に夢主が埋もれるかもしれないんですが…(；´Д｀)今後も頑張ります！ (2019年9月7日 9時) (レス) id: ad5934c8e1 (このIDを非表示/違反報告)
パシェロ(プロフ) - にゃんーーー！！（（^ω^ΞΞΞ^ω^））これが見たかったー！！映画風の夢小説見たかったんやー！ (2019年9月7日 8時) (レス) id: b9096b0156 (このIDを非表示/違反報告)
ほろにがクラゲ(プロフ) - バス停さん» 私必死に金ローしてました() 大丈夫ですかちゃんと画面観れました？ (2019年9月6日 23時) (レス) id: ad5934c8e1 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ほろにがクラゲ
| 作成日時：2019年9月5日 16時
