嘘をつくのもまた一興。【番外編】

Ep.紺青の拳 ページ15

「​───────ボクの名前は、アーサー・ヒライだ！」

冷や汗混じりにそう言い放ったのは、どこからどう見てもコナンくんそっくりの現地人風の子ども。いや、彼はコナンくんだ。

「かわいすぎやしねえか？」

「落ち着いて」

隣の神崎に真顔で囁くと真顔で返される。だって、ここに来て一話のオマージュって。

「私は毛利蘭。あっちにいるのがお父さんの毛利小五郎。アーサーくんのお父さんとお母さんは？」

「えっ……と……、日本にいる！」

「え？ アーサーくん一人でお留守番？」

「うん！ でも大丈夫、慣れてるから！」


「……いや、やっぱりかわいすぎん？」

「落ち着けって」

うるせえこちとらコナン推しだ。

どうやらそういう設定で行くらしい。聞いた話が正しければ、彼はキッドの協力がないと日本へ帰れなくなる。不本意ながらいつか以来の共闘というわけか。

「じゃあオレたちと一緒に来るか？」

だし抜けにキッドがそんな提案を持ちかける。そのとき「いいの？」と笑ったコナン……アーサーくんの含みのある表情は、私の心にダイレクトアタックを食らわせた。

「なぜ……なぜ劇場で観れなかったのか……」

「えっ、目の前で観てるのに言う？」

「だって……だって……」

顔を覆ってどうしようもなくなっていたのに、その直後アーサーくんに自己紹介をする時にはすっと表情を元に戻せていた。もしかして私のポーカーフェイスという名の無表情は、日々のオタク活動の中で培われたものなのかもしれない。

「よろしくね、アーサーくん」

「うん！」

あーっ、ゴメンなさいやっぱダメですすみませんでした。



「……そういやさ」

歩き出しながら、打ち合わせの時に聞いていなかった肝心なことを思い出す。

「レオン・ローがどうのこうのって言うのはまあ分かったよ。で、結局一連の真犯人は誰なの？ そのレオンじゃないんでしょ？」

「それ言っていいの？ 言わない方が楽しくない？」

「私たちは原作にいないんだから、もしかしたら犯人に近づきすぎて死ぬかもしれないじゃん」

「レギュラーが死ぬのは金田一の方だから！ でもまあ……知りたいのなら教えてあげるよ……」

そう言いながら顎に指を添え、わざとらしくカッコつける。と、そのとき街の人混みから「毛利さーん！」と日本語で呼ぶのが聞こえた。お、と神崎が顔を上げると、伸ばした指をそのまま正面へ向けた。

「あの人」

「あの人！？」

もうエンカウントしちゃったよ。

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