裏日常

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坂田の主治医と見られる人に案内された場所は診察室のようなところだった


「こちらへおかけください」


カルテなどが大量に積まれている机から坂田の診断書を一つ取り出してこちらへ開き直った

ピンと張り詰めたような空気になる


俺は今すぐ駆け出したい衝動に駆られている


自分を落ち着けるように、深呼吸を繰り返していると主治医さんは少し微笑んで



「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ、坂田さんの命に関わるような病気ではありません」


その言葉に隣にいるセンラは安堵の息を漏らした


「...ただ、うらたさんの今後の行動によって坂田さんの精神状態は良くも悪くもなることを覚悟しておいてくださいね」


「それは....」


「あ、自己紹介がまだでしたね、私は坂田さんの主治医となります。笹垣(ささがき)と、申します」


「単刀直入に申し上げます、坂田さんは」



言わないで、その言葉だけは聞きたくない、聞きたくない

わかってる、俺は、わかってるから



「忘愛症候群です」



世界中の色が俺からなくなったような音がした



__________

▼ センラ



「忘愛症候群です」


聞いたことのない病名を告げられたとたん、隣のうらたんの目ははもう何も映していなかった

俺は今すぐ坂田の所に行って殴りたかった


なんの病気か知らないけど、大事なお前の彼女がお前のせいで、泣いて、辛い思いをしているというのに

なんであんな俺らに対する呑気な声をあげられたな、と言ってやりたい


だが、そんな感情は一切表にはださず今俺がやるべきこと、症状を聞き出すことをしなければなりない。

失礼だが隣のうらたんはもう使い物にならない



「その、忘愛症候群はどのような病気ですか？」


「簡単に説明いたしますと、愛する人の存在、思い出、関連する全てのことを忘れ、拒絶してしまう病気です」



愛する人を、忘れる？

拒絶、する？


坂田は、全部全部、忘れてしまった？


嘘、だろ？



「原因はわかりますか？」

震える声でそう俺は問いた


「わかりません。ただその病気にかかるのは、相思相愛の若いカップルです。結婚している人たちがその病気にかかる例は今までありません」


相思相愛の、カップル

愛し合っている人達をわざわざ引き裂くような病気をなんでさかうらにかけたん？


幸せそうやったのに



「治す方法は、ありますか？」


「根本的な治療法は見つかっていいませんが、一つ絶対に思いだす方法があります」


「その方法は？」


「愛する人の死、です」




すべてが崩れた音がした




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