ペトリコール (ページ5)

今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:22,072 hit

５ページ5

そのおかげか、帰りは自然と笑みが溢れるほどだった。

「Aは、公園の拓弥さんのこと好きなんだね。」

『うん、好き…え！？違う、違う！！』

「いや、嘘！絶対好きじゃん！」

『違う！違うよ！』

帰り道、佑亮とたくさん笑った。ツーンと鼻を掠める匂い。きっと、明日は雨だろう。

予想通り、次の日は雨だった。

佑亮は風邪を引いたみたいで雨の通学路を今日は一人で登校する。

湿気で髪の毛は広がるし、一人ってだけでなんとなく心細い。

公園に差し掛かり、ふと東屋へと目を向けた。

『…いた。』

足が勝手に進行方向を変えて、どんどん彼へと近付いている。

効果音がつくかのごとく勢いよく彼の近くに立ち止まり、目が合った。

吸い込まれそうなぐらい綺麗な目だった。

「…なに。」

『あ、あの！私、AAです！えっと、その…突然話しかけてすみません…』

突然自己紹介を始める自分の謎の行動に恥ずかしくなって、その場を去ろうと一歩後退りしたとき。

「…洋食屋の？」

『え？』

「祐基がよく言ってる。Aちゃんって。」

『祐基…村田さん？…はい！そうです！』

注文を取りに行ったあの一瞬でしか会っていないのに、拓弥さんが覚えててくれていたことに感動して泣きそうになった。

ましてや、Aちゃんって名前を呼んでくれたことが嬉しくて嬉しくて飛び跳ねそうになった。

「で、なに？何か用？」

『…えっと、別に用はないんですけど…体が勝手に動いてたっていうか…』

だんだん小声になる自分にさらに恥ずかしさが増してくる。

「面白いね、Aちゃん。意味わかんねぇ。」

拓弥さんが、笑った…。

目を細めて笑う姿も素敵だった。

「拓弥。草川拓弥。よろしく、Aちゃん。」

『よ、よろしくお願いします！』

ぷっとまた吹き出し、笑い始める。わたしの必死な感じが面白いんだと。

『拓弥さん、明日もここにいますか？』

「わかんない。天気次第。」

『天気…次第？』

「そう、天気次第。じゃあ、学校遅れるからまたね。」

『…はい。また。』

“またね”の挨拶にまた近く拓弥さんと会えることを期待して、わたしも学校へと向かった。