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「Aちゃん」



そう優しく呼んでくれた拓弥さんの声が今でも耳に残ってる。




「…Aさん、めっちゃ顔ニヤけてるで。」




『べ、別にニヤけてなんか…あ、はい、これ。昨日頼まれてたやつ。』





自然と頬が緩んでいたみたいだ。松尾くんに見られていたの恥ずかしい。





この日は一日浮かれ気分で過ごした。バイトの接客も笑顔で乗り切れる気がする。





「Aちゃん〜!来たよ〜!」





嵐のような村田さんたちへの対応も今日は平気だ。




「今日はね〜、どうしようか…てか、Aちゃん、何か今日すっごい可愛いんだけど。ね!?海!…いや、いつも可愛いんだけど!」




「うん、いつもと違って笑顔だからかな。」




『…へ?』




「なんか良いことあった?」





わたしはきっと顔に出やすいタイプなのだろう。毎度絡んできて鬱陶しいと思ってたけど、今日ばかりは何でも許せてしまう。





それもこれもある意味村田さんのおかげだ。感謝の意味も込めてこれからは祐基くんって呼ぶことにしよう。





『…祐基くん。ありがとうございます。』





祐基くんは、突然呼ばれた自分の名前に口を大きく開けて目を見開き固まっている。





「……ねぇ!海!聞いた!?祐基くんだって!!!え、どうしよう。嬉しい。」





その姿に思わず笑ってしまった。きっと拓弥くんに名前を呼ばれたときのわたしもあんな感じだったのだろう。




「やばい、Aちゃんが笑ってくれてる…。よし、決めた!今日はサーロインステーキにする!」




『かしこまりました。』




時が過ぎるのも早いもので、バイトの上がりの時間。




外に出てみると雨。学校からの帰り、雨が止んでいたから昇降口に傘を忘れてきてしまった。




今日、佑亮は迎えに来てくれないしこのまま濡れて帰るしかないかな。鞄を傘がわりに頭に乗せて、意を決して雨の中に飛び出そうとした。





「あ、Aちゃん。」





ずっと耳に残ってた声。その声のほうに振り向くと彼がいた。




『拓弥…さん…。』




「傘は?ないの?」




『えっと、学校に置いてきてしまって…。』




「…入る?送ってくよ。」





思考回路が停止した。思わぬ展開に固まってしまった。

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作者名: | 作成日時:2018年9月18日 8時

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