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拓弥さんは、雨の日あの公園で、何を見て、何を感じて、何を思っているのか。教えて欲しかった。
「…雨の匂いってさ、なんか懐かしい気分にならない?」
『私も…さっきそう思ってました。』
「ペトリコール。」
『ペトリコール…?』
「雨の匂いの名前。ペトリコールって言うんだって。どこの国の言葉か忘れたけど。」
『なんか呪文みたいですね。』
地面から湧き上がる雨の匂いをもう一度深く吸い込んだ。拓弥さんのほうを見ると、目を閉じていてきっと同じことをしている。
「たしかに、呪文かもね。…俺さ、周りから人が離れていくのが怖いんだ。」
キュッと膝の上で両手を握っている。
「だから、あんまり人と深く関わらないようにしてて。俺が友達だと思ってるやつも海と祐基しかいない。」
淡々と言葉を紡ぐ拓弥さんにどこか寂しさを感じた。
「俺、こんな性格だからさ、うまく人と付き合えないっていうか自分を偽ってるっていうか…疲れるんだよね。ちっちゃいときはそうじゃなかったのに。」
『…でも、私にはそう見えません。』
「ごめん、なんかこんな話して。俺が雨の日にここにいる理由は、嫌なこと全部洗い流してくれる気がするのと、この匂いのおかげで純粋だった小さいときに戻れる気がするから。」
これでいい?と拓弥さんが首を傾け、こちらを覗き込んだとき、私は勢いよく立ち上がり、拓弥さんの目をじっと見た。
なんだかよく分からないけど、涙が溢れそうだ。
「…Aちゃん?」
『…あの…私が!』
「私が…?」
『私が!…拓弥さんの、友達になります。私が、雨の代わりになります!』
私の意味のわからない告白に、目を見開いていた拓弥さんも次第に笑顔に変わっていった。
「友達か…。じゃあ、友達第一歩として、敬語やめてくれる?」
『はい、やめます!』
「ほら、また。次、敬語使ったらジュース一本奢りね。」
『え、それは嫌です!…あ。』
「はい、ジュース〜。それと、拓弥さんって堅苦しい。」
『じゃあ、拓弥…くん?』
「まぁ、いっか。それで。」
少しだけ、拓弥くんと近づくことが出来た気がする。二人で笑いあっていると、遠くから始業のチャイムが聞こえてきた。
時計を確認すると、もうすでに始まりの時刻。
「Aちゃん、今日学校サボんない?」
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作者名:ま | 作成日時:2018年9月18日 8時