水椿鶴遊/ K.Hr ページ18
×
艶々したぬべらかな御髪が眼前にはらり、と流れた。透き通る様な透明感のある指が己の瞼を覆う。彼女だ。今は掌に覆われて視認は出来ないが、小さな頭が僕の左耳に寄せられる感触がある。クリアな声が優しく鼓膜に染み込んだ。春の霞の様なしっとりとした声音が僕の名前を呼ぶ。桃色の唇が寄せられて、藤の花弁が揺れる様にくすくすと笑う。
「晴。可愛い私の晴。良い子の晴。」
「A様、」
旋毛に花が色付く様な口付けに鼓動が高鳴った。彼女は手を瞼から離すとくるり、と此方に回った。彼女の挙動に合わせて空中に透明の椿が綻ぶ。眼前に粉黛を施した麗しき永代の乙女が其処に在る。さらり、と伸びた御髪が空中に墨の様に尾を引いていた。
「晴、寂しかったね。ママは此処に居るわ。」
「ま、ま……。」
つるり、とした玉肌が僕の手を包む。優しい花の香りと果物の甘酸っぱい香り。鼻腔から肺に入ってすっ、と浸透する。心がうるおってゆく。僅かに薄荷と爽やかな香りが彼女の御髪から滴る。伸びやかなエーデルワイスを謳う様に彼女の指が僕の髪を梳いた。
「頑張り屋の晴。ママは晴が大好きよ。」
「う、ん……。」
彼女は甘い柑橘の香りを楽しむ様に柔らかに微笑んで僕の額に小さく愛玩を落とした。檸檬の爽やかな風が靡くと遠くから二人の声が聞こえて来た。間が悪かったかもしれない。賑やかな声が扉を潜って弾けた瞬間、空気が変わった。二人は一瞬目を見開き、一人は刀に手を、一人は床に膝を付く。
「晴のお友達？」
「うん。」
「そうなのね。綺麗な子達、私は蜜花鶴水玉櫛椿上、A。私は
「やだ。まま、行かないで。」
蜂蜜の様に甘く幸せな時間が消えてしまう事があまりに寂しかった。滑らかな鶴羽の御召し物を軽く引いて甘えて強請る。つるり、とした生地が肌に心地良かった。僕、Aの理想でしょう。可愛い可愛い息子の筈。貴女の愛した息子を置いてゆくの？うるんだ瞳で上目遣いすれば優しく頭が撫でられた。蜜柑の花の香りがふわり、と舞い上がる。
- 金 運: ★☆☆☆☆
- 恋愛運: ★★★☆☆
- 健康運: ★★★★★
- 全体運: ★★★☆☆
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 191人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鵯(ひよどり)(プロフ) - イズミさん» お初お目にかからせて頂きます。ご愛顧賜れて何よりで御座います。リクエスト承りました。緩慢に連ねておりますので3日〜1週間程お時間頂戴する事、ご承知おきくださいませ。 (2022年11月29日 21時) (
レス) id: 9c96610dd1 (このIDを非表示/違反報告)
イズミ(プロフ) - 初コメ失礼致します。鵯様の作品の何とも言えない美しさの虜になった者です。リクエストでskngさんで束縛タイプのヤンデレは可能でしょうか…？その他のシチュエーション等はお任せ致します。 (2022年11月29日 18時) (レス) id: 58fc769308 (このIDを非表示/違反報告)
鵯(ひよどり)(プロフ) - 煙さん» 此方こそ大変有難うございました。そういう表現は旗付きにならない様にする事が出来ませんでした。無念。妄想で補ってくださいませ。大変申し訳ない。微力ながらも精進して参ります。よろしくお願いします。 (2022年11月20日 23時) (レス) id: 9c96610dd1 (このIDを非表示/違反報告)
煙 - リクエスト書いてくださりありがとうございます…！実物の彼はヤンデレチックな素振りをあまり見せないので難しいかなぁと思っていたのですが、見事に解釈一致で助かりました。これからも貴方様の美しい小説を楽しみにしております！ (2022年11月20日 22時) (レス) id: 0f6ec90c76 (このIDを非表示/違反報告)
煙 - いつも主様の作品楽しく読ませていただいております。リクエストなのですが、夢主が少し病み気質で手首に傷をつけたりしてしまうタイプで、夢主大好きなkgmさんがおそろいにしたくて真似しちゃうみたいなお話をお願いしたいです。 (2022年11月16日 17時) (レス) @page1 id: 0f6ec90c76 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
