【wrwrd!】内在ペシミズム【短編集】

未来はいつだって/ eml ページ36

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掠れた視界に映ったのは白い天井であった。柔らかな暖色の電灯が優しく空間を包み込んでいる。私は朧気で輪郭を保たない景色を虚ろに見つめていた。プログラムに従って瞬きをする。こうすることで自動的に眼球として内臓しているカメラのレンズが切り替わる仕組みになっているからだ。何度目かの瞬きの末、漸く視界を鮮明に捉える。

「おや。おはようございます、Aさん。」
「おはようございます、マスター。」

導き出された演算結果の提携文に沿い、挨拶を返せば、彼は困惑した様な表情を浮かべた。ひょろりとした痩身痩躯の背の高い男は私に近づくとメンテナンス台に横たわる私を上から覗き込んだ。透けて色味の無い虹彩の所為か彼の表情を正確に読み取るのは難しく感じられた。

「マスターの表情を認識出来ませんでした。再履行しますか？」
「嗚呼、ちょっと待っといてくださいね。」

彼は再履行の指示をエスケープする。私から離れてゆく革靴の音がよく響いた。彼が白衣を翻した時に微かに感知した鉄と重油の匂いに首を傾げる。私は指示が無いのを良い事に周囲の状況を確認した。私が横たわっているのはメンテナンス台である事は分かり切っている。四肢に戦闘用AI専用の制御装置が繋がっており、横目に見れば、コード線が幾つか伸びている。メンテナンス台の隣には自立式タッチパネルが置かれている事からバイタル指数でも測っていたのかもしれない。一見するとラボラトリーに見えなくも無いが、「らしい」のはその一部だけである。

「お待たせしました、Aさん。」
「マスターの表情を再認識……。クリア。一致するデータが一件見つかりました。保有データコードをどうぞ。」
「48254」
「……おはよう、エミさん。」
「おはよう、Aさん。」

たった数秒。人間には刹那でも電子では森羅万象を成し遂げるのに充分な時間だった。けれど記録媒体と蓄積データは粗方ゼロに近いものだった。メモリの最初期記録は13年前。にも関わらず、今日における記録が全て消去され、閲覧不可になっている。恐らく彼が消去したのだろうが、一体何の為に。私は人工知能？で疑問を抱きながら彼に視線を注ぎ込む。彼は自立式パネルを操作して、四肢のロックを解除してくれた。

未来はいつだって/ eml→←煌めき、砕く。/ grppn

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