散らす涙と咲く笑顔 ページ10
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丁度、あの日から一年。私は見事に第一志望に合格し、卒業生代表として麗しく慎ましい晴れ舞台に立つことができた。卒業式も終わり、ホームルームも終わった私はいの一番に生徒会室へと足を向けた。校舎最上階4階。東階段を登ったすぐの場所、と言っても私の教室は生徒会室の向かい側に面しているから階段を使う必要はなかったのだけれど。
まるで体験入部に来た一年生のように緊張しながら控え目に4回扉を叩いた。数拍置いて重い扉が開かれる。
「卒業おめでとうございます。A先輩。」
「ありがとう、輝夜君。」
扉を開いた本人は私が一時期恋い焦がれた輝夜君だった。その見目麗しさは彼に恋していた時と何ら変わらない。その危うい甘美さは名も知らぬ誰かを誘惑していることだろう。
懐かしの生徒会室には輝夜君以外誰もいなかった。おそらく彼が仕組んだ舞台なのだろう。銀縁眼鏡の奥の双眸は余裕たっぷりに歪められている。窓から差し込む暖かな春の陽射し。色素の薄い彼の髪がキラキラと星屑のように反射する。ずっと想いを寄せていただけあってそんな単純な風景でも胸がときめいてしまう。
卒業。私が此処にいることが出来るのは今日が最後である。最後ぐらいいいだろう。少しだけ今までの恋心が惜しくなったし、今なら言える気がするから聞いてしまおう。
「ねぇ、輝夜君。私が輝夜君が好きだったこと、本当は気づいてたんでしょう。」
「そうだったんですか。勿体無いことをしました。」
「思ってないくせに。」
彼は何のことやらといった表情で微笑んだ。細められた瞳に滲んだのは作戦が上手く行ったと喜ぶ悪戯っ子のような感情。やはり彼は鋭いなぁ。人を翻弄するようなことはしないけれど、圧倒的なカリスマ性の持ち主に考えがばれない方がおかしいのだから。彼に夢中だったときは気づきもしなかったけれど。
そんな過去の私に苦笑してしまう。こんなに穏やかな気持ちで最後の一日を過ごせるのもきっと彼のおかげに違いない。生徒会室の扉がノックもなしにガチャリと音を立てて開く。
「人の彼女を誑かすのは頂けませんねぇ。」
扉に颯爽と現れたぶんぶん。一瞬にして色鮮やかに私の心を塗り替えた後輩。
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作者名:鵯(ひよどり) | 作成日時:2018年3月2日 17時