ねじれの位置にある恋 ページ19
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それでもグラフの時間の経過に抗いたくて仕方がない。彼女と一緒にいたい。ただそれだけ。特異点に立った今なら彼女の関数と交わることができるような気がした。ただそれだけの為に雨に降られて見るも無惨な相貌になりながら必死に水没したアスファルトを駆けているのである。冷雨が体に突き刺さり、体力と体温を根こそぎ奪っていく。
視界は更に歪む。メガネが振り付ける雨が目に刺さらないように視界を緩和していると言っても、視界は悪行。だが、構ってなどはいられない。一秒でも早くあの場所へ辿り着かなければならないのだから。この足は、この体は、この頭は今やるべきことをきちんと分かっている。進むべき道を知っている。彼女と何度も訪れた想い出の場所。
雑踏の中でふと透き通った晴れた青空のような優しい香りがした。彼女が出来損ないの僕を何度も何度も許して、包み込んでくれた優しい香り。だとしても振り返る余裕なんてない。彼女をもう待たせるわけにはいかないのだ。
ダッシュで喫茶店の扉を見つけて開く。荒々しく喫茶店の鈴音が鳴った。勢いよく開けたのだから当然だ。彼女の影を無意識に追う。いつもより疎らな店内をいくら見回しても彼女の姿はなかった。
「いらっしゃいませ」
男声と女声の中間をうまく配合したようなしっとりとした涼やかな声。麗人と表現しても差し支えないような美しい店員さんが僕に声をかけて白いタオルを差し出した。何だか妙に眩しい色。
今の自分には不釣り合いに思えて何だか妙に腹が立つ。綺麗すぎると思ったのかもしれない。だとしたら、それは僕が汚れきっている証。僕はタオルに手を伸ばさなかった。
「あの、女の子来てませんでした?肩につくぐらいの髪の子。」
「ああ。そちらの方なら先程お帰りになられました。随分と長いお時間座っていらっしゃいましたが。」
そのとき妙に辻褄というか、歯車が噛み合った。さっきのあの優しい香りは彼女そのものだったのだ。急いで外を見るも、雑踏がのさばっている中で彼女を見つけ出すのは至難の業である。彼女の姿は僕の中にはなかった。外に飛び出す。いるわけない彼女の幻影を追おうとしてしまう。普段走らない僕のことだ息が切れてしまい、その息が白濁し宙に溜まる。
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作者名:鵯(ひよどり) | 作成日時:2018年3月2日 17時