ねじれの位置にある恋 ページ16
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もしかしたら、彼と私はそんな運命だったのかもしれない。交点に重なっているように見えて、実は座標が違うねじれみたいな。人生という閉ざされたメビウスの交点にみたいに重なっていたんじゃないかって。たった一瞬を切り取って時間軸における流動性を失念していたんじゃないかって。交点を過ぎた今ではもう、希望的観測も役には立たない。
「よかったら使ってください。」
店員さんから差し出される、一本のビニル傘。白い柄には高級傘のブランド名が金文字で入っている。ぎょっとして見上げると麗人と表現しても差し支えないような顔立ちの整った背の高い店員さんだった。それに彼の面影が重なって視界が更に滲む。彼と初めて出会ったときも、傘を持たない雨の日だったから。
こうやって待ち合わせをすっぽかされた私に横からするりと傘を差し出された。ヘラヘラした掴み所のない、虚構の笑顔で。そのとき渡された傘もビニル傘だった。流石にコンビニの安物だったけれど、それでも雨水を遮るのには充分だった。おずおずと受け取ったときに手が触れて、その手が異常に冷たかったのを覚えている。
その愛しい思い出ももう此処にはない。彼と重ね合わせてしまって、私は無言で首横にを振った。今日でこの店の常連も終わり。此処にはもう二度と来ない。過ぎ去った座標に戻ることなど出来はしないのだから。だから返せない。こんな高級傘を借りても、本人の手には戻らない。それが申し訳ないとこじつけて納得する。
此処は彼と私の始点であり、終点。あまりにも想い出が多すぎる。此処にいたら、永遠に彼に溺れて窒息してしまう。私は今から先に進まなくてはならない。メビウスのような永久機関ではないのだから。どんなに苦しくても、雨に濡れても、歩み続けなければならない。永久機関から外れた特異点に立ったのだから当然だ。
ドアを開ければ転がる鈴音。ああ、ああ!もうこれで最後なのね。後悔だけを残してしまうのが少し惜しい。ふわりと香った雨の匂い。嫌いだ。雨がワルツを踊るように軒下とアスファルトに水滴で出来た一瞬のドレスをはためかせている。すれ違う傘の群れが色とりどりの踊り子に見えて私の中の悲壮感を更に煽っていく。
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作者名:鵯(ひよどり) | 作成日時:2018年3月2日 17時