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ホルマリンの海へ ページ18

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ひどい薬品のにおいだ。けれどそれは彼と彼女の愛の証。ウエディングドレスを身にまとった少女は純潔のまま天に召された。ぷかぷかと永遠の魂の旅の海にたゆたう彼女は海中の天使だった。

天板を軽くつついて彼女に愛を伝える。


「好きだよ。いつまでも」


彼女からの返事はない。永遠に朽ちることのない白薔薇を愛でることのなんと滑稽な。酔狂。

彼は正気の沙汰ではない。死体を眺めて頰を緩めるなんて側から見れば鳥肌ものだ。それでも本人は至って真剣で満足しているのだから、水を差すのは野暮というもの。観察している私も相当変であるからここは見過ごそう。

棺の中でも彼に囚われ続ける哀れな白い小鳥は天に旅立ってから相当の月日が経っているらしく、色が所々抜けている。けれどその白さも相まって少女の美しさに拍車がかかっている。

彼女の薬指には銀色に光るプラチナリングが鈍色に光っている。まるであの日のように。

おっと、これは言ってはいけないお約束。失敬、失敬。


まあ。簡潔に言い切ってしまうと彼は1人で人形遊びをしているのだ。生前の彼女は自分の死後、彼にそうすることを許可したのだから彼女も充分に頭がおかしい。

棺の中の花嫁、ホルマリンに浮かぶ、自ら羽をもいだ白い鳥。


ああ。なんて酔狂でなんて愛らしい2人。愛に溺れホルマリンの海へ、いらっしゃい。全てを忘れてたゆたおう。



ある研究施設で2人の遺体が見つかった。1人は白衣を着ていた青年。もう1人はウエディングドレスを着せられた幼い少女。

後々彼らの身元が判明し、世間を小さく賑わせた。彼らは遺伝子配合で産み落とされた実験動物、いわゆる試験管ベイビーだったからだ。

けれど文書などは一切残っておらず、青年が書類送検されて事件は幕を閉じた。

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桜花 - 綺麗ですね。どう伝えたらいいのかはわからないんですけど、とても綺麗で、もっともっと読みたくなります。他の作品も覗かせていただきますね。 (2017年12月14日 20時) (レス) id: c1d7847deb (このIDを非表示/違反報告)
(´・ω・`)Love(プロフ) - とっても面白いですっ!特に、気まぐれ暴風域にようこそが個人的にお気に入りですっ!更新、楽しみに待ってますねっ! (2017年11月14日 8時) (レス) id: e516045fa3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2017年11月4日 2時

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