廃墟で何を想う 【オリジナル短編集】

毒入りハニー ページ16

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玄関扉をくぐると優しい笑顔で今日も彼女が微笑みかける。

「おかえりなさい、あなた」


病的に白く細長い指が俺の仕事の書類の入ったカバンを受け取る。黄色と白のエプロンの結び目が空を切った。

パタパタとスリッパを鳴らしてリビングに小走りに駆けていく嫁さん。


なんだか嫁さんが手に届かない遠いところに行ってしまう気がした。

俺は頭を振り彼女の背を追いかけた。


「今日はお肉にしてみたんだ」


はにかむ彼女。最高にキュート。ちょっと焦げ目のついたハンバーグが皿に盛り付けてある。

スーツが汚れないように軽装に着替えて食卓についた。正直、味気なかった。けれど彼女が作ってくれたものだ。なぜかぼんやり彼女が滲む。

俺は急いで口の中の物体を飲み込んだ。


俺は彼女のために卓を軽く掃除してテレビをつけた。騒がしいバラエティ番組を選択して彼女を待つ。

「おまたせ。あなた」


お風呂から上がったばかりの彼女は実に扇情的だった。じっとり濡れたセミロングが甘い香りを放っている。砂糖よりもずっとずっと甘い。

まるで蜂蜜入りのキャンディみたいにベタベタしていて。濃密で息苦しさを覚える匂いがふわりと近づく。



バラエティ番組が終わったチャンネルは臨時ニュースを報道していた。

「次のニュースです。あるビルから転落して亡くなっている女性の遺体が発見されました。女性はおよそ三十代前半と見られ、殺人の可能性があるとして捜査が続けられています」

「たった今、身元が判明しました。ある住宅街にお住まいのAさんと見られます」

「所持品から夫が麻薬の使用の可能性があるとみて、同時に捜査を進めています」

ジュエリータルト→←散れ散れ、純血。

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