長月兎のお茶会・上 ページ7
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ピーンポーンと軽快にスキップするようなチャイムが静かなアパートの一室に響き渡る。
ここの住人である私は近くにある鏡で軽く身だしなみを整え、玄関の覗き穴から来客を伺う。
「どちら様でしょうか」
できるだけ不自然にならない声音で招かざる珍客に尋ねる。
相手は訪問販売員らしく、会社名を告げてきた。丁度、雑談相手が欲しかったため、私はその客を中へ通した。
「居間にお通しして申し訳御座いません」
私はいつもと変わらぬ佇まいで彼に謝った。
新人なのか、若干あたふたと落ち着きがなかった。
きょろきょろと部屋を見回して辺りを物色している。…失礼にもほどがある。
物珍しそうに辺りを見回している彼に私はお茶出ししようとメニューをきく。
「今、飲み物を切らしておりまして、紅茶しかないのですが、よろしかったでしょうか」
ウソだ。本当はコーヒーも緑茶もある。
あくまでワザとだ。
タイが原産の、日本ではなかなか手に入らない幻の紅茶をポットに入れ、お湯に出す。
合間に紅茶に合うジャムとレモンを出す。
今日のお茶はマフィンを焼いていたので、それを形良く並べ、机に並べていく。
まるで絵本で見るような豪華なお茶のセットが美しく並べられていた。
丁度、時間になったのでワザと目の前で紅茶を淹れてやる。
販売員はなぜ自分がここに来たのかも忘れ、現実に乏しい光景に見惚れていた。
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作者名:鵯 | 作成日時:2017年9月18日 11時