吐くは愛、吸うは毒 ページ33
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好き。ヒトはたった一言にどれだけの気持ちを込めるのだろうか。
記号化する人間、熱に浮かされる人間。
千差万別。十人十色。
好き。私は溺れるほどに好き。
どうしてこの口からはそんな簡素な言葉が溢れるのだろうか。ああ。味気ない、愛がない。
もらった煙草に火をつけ、煙を吐く。自分のいつも吸っている煙草よりも苦い。仕方ない。あの人はこれが好きだから。
あの人の香り。あの人の声。あの人笑顔。
たった煙草一本でそう思うのだから私も単純な女だと今更ながら思う。
ゆるゆるになったシルバーリングがぽとりと床に落ちる。ああ。ここまであなたに溺れてしまうとは。暗い部屋にやけに響いた音を遮るように光るソレを卓に戻す。
結婚するときにつけた首輪などあてにならない。今、私はあの人からホンモノの首輪をもらい、現に首についている。ジャラジャラと響く鎖の音はきっとあなたと私を繋ぐ愛の音。
手にも足にも同じようについた輪はきっと輪廻の証。来世もきっと変わらずあなたに溺れる。
けれど溺れるのが心地いいから仕方ない。これは神様だって解決できないわ。
「ただいま、A」
帰ってきたあの人。私はできるだけ早くあの人に駆け寄り抱きしめてもらう。ふんわりと香る煙草の匂い。ああ。待ち遠しかった。
見つめ合うだけで、幸せ。どんよりと濁った目が私を捕らえる。ああ、好き。
私はありったけの愛をあなたに差し出す。きっとあなたはどんなに歪でも受け取ってくれる。
そして、私はあなたの広い心に溺れるのだ。きっと体には悪いかもしれないが、そんなのどうだっていい。侵されてしまえば毒もクスリも同じだ。
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作者名:鵯 | 作成日時:2017年9月18日 11時