おもちゃ箱の中【オリジナル短編】 (ページ31)

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ジャム瓶の苺ページ31

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※天使の無慈悲な微笑みの続き

「大きくなったら結婚する」

いつかのキミのプロポーズ。あの時君はまだ幼くて、私もまだ若かった。

「僕と結婚してください」

紅葉散るカエデの木の下で紡がれた言葉。彼の持っている小さな箱にはキラリと反射する結婚指輪。彼の真っ直ぐな瞳が本気だというのを夢だと思いたい。

「私、おばさんだよ？」

そう。年老いたおばさん。結婚してもおそらく子供は産めないし、先に逝ってしまうかもしれない。そんな年老いたおばさんのどこがいいのだろう。

「僕は貴女のいる場所に帰りたいんです」

「幸せなこと、辛いこと全部を共有したい」

「それとも、僕じゃダメですか」

確かにお付き合いもして、同棲もしていた。けれど私は冗談半分だと思ってたし、半分は居候だと思ってたから。半信半疑。

あなたはいつだってそう。甘い言葉で私を誘惑してきて私にその蜜を舐めさせようとしている。一歩踏み出せば、蜜壺の中。ずるずると下へと吸い込まれていく。

ベタベタしていて体中がその甘く、喉が灼けるのもいとわず求めるから甘い匂いが染み付いてとれなくなってしまう。

けれどあなたは何も知らずにあの天使のような笑みで無垢に笑っているから結局は堕ちちゃうのよね。ああ。無様。

そんな考えにぎゅっと蓋をして透ける想いをラベルで隠して。

「不束者ですが、よろしくお願いします」

ああ、答えちゃった。手渡されるルビーの指輪。何だか透き通ったジャムみたい。

晴れて新婚。甘い甘い生活になるようにじっくりじっくり私たちのペースで。