偽りの夫婦 ページ4
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空が茜色に染まり、影が一層濃く地面に落ちる。カラスが西へ向かって2、3羽飛んでいく。
カイエンパンザマストが鳴り響き、住宅地には枯れた落ち葉がカラカラと転がっている。
私は古風な二階建ての住居の玄関の鍵をからりと回した。
「ただいま」
「おかえり」
たった一言。私はここの住人のように家に上り込む。ミシミシと飴色の廊下が私の存在を主張する。図々しく台所までスーパーのタイムセールの品を運び込んだ。
手を洗い、休む暇なく夕食の準備に取り掛かる。居間の方からあの人の声が呼びかける。
「今日のお夕飯は」
「魚の煮付け」
何気ないありふれた会話。夫が妻に尋ねる当たり前の会話。本来、私たちには成立しないはずの。
まな板と包丁を用意しさっさと夕食を作っていく。私たちは喋らなかった。
余ったお米を温めなおし、ベーコンとアスパラガスの小鉢ともやしナムルを作る。セールの酢で〆た鯖を大根のツマとシソを付け合わせに盛り付けた。
「実家から梨と柿、送られてきた」
「冷蔵庫に入ってるから、切って」
突如、前触れもなく言うだけ言ったと言うように私にリクエストしてきた。煮付けを皿に移した後だったのでベストタイミングである。
冷蔵庫から梨と柿を取り出し、剥いていく。
本当にブランドモノなのでスーパーで買ったら値段が張る品物だ、ありがたい。
ちゃぶ台に並べ、二人で黙々と食べる。
まるで晩年の夫婦のようだ。
家事代行の私とあなたじゃ、夫婦でも何でもないんだけど。でもこの場の沈黙がとても心地よくて、よく分からない感謝をしながら米を口に運んだ。
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作者名:鵯 | 作成日時:2017年9月18日 11時