Wood Lunch Box ページ30
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変わった子だった。キンモクセイの茂みの中でお弁当を食べている丸眼鏡の少年。
校則通りに着こなした制服。不良で有名なこの学校では見られない光景。そこだけ平和ボケしたような、この喧騒とかけ離れた非日常が広がっている。
長い箸が木の弁当から白米を摘んでいる。
コスモスが咲き乱れる陽だまりの中にアゲハ蝶がひらひらと舞い踊る。蝶が彼の周りに降りてきて肩に一羽止まる。
「くすぐったいなあ」
ふわりと微笑む彼は無垢な幼子のように平和の中に浸ってお昼ご飯を食べている。
水筒の中身を一口飲んで彼はお弁当を包み始めた。
彼が立つと木の後ろにいたのか真っ黒な猫が彼の後ろを歩きだす。蝶は肩に止まったままだ。
一瞬、どんぐりのようにくりくりした瞳と目が合う。くしゃりと微笑んだ顔が何だか儚くて。彼は私に会釈をして通り過ぎた。
「宮野。教室に動物を持ち込むな」
古典の時間に教師から注意を受ける彼。あれから蝶は増えて3羽ほどになり、黒猫に追加で野うさぎが彼の膝に乗っている。
「あ。ごめんなさい」
彼は悪びれもせず謝ると窓から蝶を逃す。
「ごめんね。また遊ぼうね」
「せんせー。ここから野うさぎ落としたら死んじゃうから下に行って逃して来てもいいですか?」
物騒な言葉を吐きながらもちょこんと首を傾げられる。先生からの許可をもらうと野うさぎを膝から抱き上げ優しい声で話しかける。
「それじゃ、行こうか」
教室の前の方から廊下に出てうさぎの頭を撫でながら歩くその後ろから黒猫も付いて来る。
ぱたんと閉まる扉にまた喧騒が戻る。
放課後になると彼は真っ先に帰宅準備を始める。今日は生徒会活動とやらがあるらしく、名前を呼ばれた彼はさっさと生徒会室へと足を向けた。
廊下に足を踏み出した途端、喧嘩を吹っかけられる彼。ルックスや可愛い声で人を判断しがちだが、臆することなく人を笑顔で弾き飛ばしながら歩いている。
「ふくかいちょー!しょきちょー!ぷりーずへるぷみー!」
脳天にスパンと手刀を振り下ろしながらにこにこと楽しそうに話しかける。ちなみにふくかいちょーを見た瞬間に不良は散り散りに逃げて行った。
「会長。もう少しあなたは威厳というものを…」
ブツブツと呟く書記長さんに笑顔で口を閉ざさせ、ありがと!と幼子が母に抱きつくように副会長に抱きつく。副会長は彼を抱き上げ、生徒会室に上がり始める。
うちの学校の会長は変わった人です。
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作者名:鵯 | 作成日時:2017年9月18日 11時