弐 ページ38
探しに行こうと手を引かれ、俺たちはシブヤのあちこちを歩き回っている。
ギャンブラーの男のこの行動力は、やはり凄い。
｢どこにいんだよ〜……はぁ…｣
普段の散歩コース、近所の公園、駅前、商店街。狐の行きそうな所から、行ったことのない所まで探した。
けれど、何処にもいない。
｢…帝統……もう｣
｢諦めんな。絶対に会うぞ｣
そう言って強い力で手を引かれた。
別にこの男は一緒に探さなくてもいいのに、関係無いはずなのに、こんなに必死になってくれる。
｢…帝統、ありがとうございます｣
｢ん、おう｣
少し照れたような反応に、思わず笑ってしまった。
｢あれれ〜?二人とも何してるのっ!｣
｢あ、乱数｣
突然声をかけられ、二人して振り向く。そこに居たのは知りすぎた人物だった。
｢丁度いい、乱数｣
｢ん?｣
飴玉を転がしながら、大きい目でギャンブラーを見上げてくる。本当に少年のようだ。
｢和服を着た男を見なかったか?｣
｢和服〜?見たよ!｣
｢どこで!?｣
思ったよりも大きい声でそう聞いてしまった。周りを素通りする何人か振り向くのが気まずい。
｢僕の目の前っ♪｣
｢は?｣
｢お前、ちゃんと答えろよ!｣
｢え〜!!だってぇ、今どき和服来てるのって幻太郎くらいしか僕知らないも〜ん!｣
泣き真似をしながらそう言う少年。
それもそうだ、和服を着ていたら目立つ。なのに見つからないのは…もう…。
少年とギャンブラーが話に夢中になっている。俺は何も言わずにその場を離れた。
顔を上げる気になれず、アスファルトを眺めながら歩みを進める。
しかし、この足はどこへ向かっているのか分からなかった。
家でもない。
｢…何処に………何処に行けば会えますか…A｣
A?
何も考えずに、自然に出た名前。
ギャンブラーが何度も名前を呼んでいたからとか、そういう理由ではない。
自然と、自然と出たのだ。
｢……A、A｣
小さい声で、何度も名を呼ぶ。
会いたい気持ちが募り、段々胸が苦しくなってきた。
そこに手を当てながら、俺は歩く。
けれど、やっぱり歩く時は前を見た方がいいと思った。
｢え｣
顔をあげたら、目の前にはトラック。
そして最後に聞いたのは、運転手の慌てる声だった。
終わり
ログインすれば
この作者の新作が読める(完全無料)
←壱
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 89人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ふぃっく - 一番気になるところで終わるのがウズウズします！！！！！！ぜひ続きを書いてください！ (2023年4月16日 14時) (
レス) @page38 id: 634615dde5 (このIDを非表示/違反報告)
心春(プロフ) - ロールロールさん» コメントありがとうございます。最近更新出来ずに申し訳ありません…。近々更新致します。あたたかいお言葉ありがとうございます。 (2020年4月5日 12時) (レス) id: 3f9e794f84 (このIDを非表示/違反報告)
ロールロール - はじめまして!とても楽しみに更新待ってます！体調管理に気をつけてください!応援してます。頑張ってください。 (2020年4月5日 0時) (レス) id: d8adda4a88 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：心春 | 作成日時：2020年1月12日 9時
