狐の婿入り 弐

拾ノ巻 箱 ページ36

なんで、どうしてだよ、と繰り返すギャンブラー。
こんなにも涙を流し、悲しみに暮れている姿は初めて見た。

｢…帝統、小生は……｣

ここから先の言葉が出てこない。
言葉を、字を、物語を綴る者として、情けないと思った。

｢お前っ…すげぇ幸せそうで、まるで……少女漫画みてぇに…っ…目をキラキラさせてたんだぜ…｣

｢え…?｣

少女漫画?この男が言っていることが、俺には理解できなかった。
けれど、何故だろう。

今、幸せですか?と聞かれたら
何も答えられない気がする。

それは、あの人がそばにいないから…。

｢……あ、れ…?
な、なんで…涙が…?｣

気がつけば俺も泣いていて、ギャンブラーはそれに驚いていた。
けれど一番驚いたのは、俺だ。

｢幻太郎…｣

｢だ、帝統のが…うつったんですかね!
貰い泣き、しちゃいました…｣

違う。貰い泣きなんかではない。

これは‘悲しくて’、‘寂しくて’出た涙だ。

さっきと同じ。でも、今度は涙を我慢することが出来なかった。

だって＿＿＿＿

｢帝統っ俺は……おれ、……誰を忘れてるんですか?
寂しいんです。悲しいんです。……っ顔も変わらないのに………凄く、会いたいって思うんです｣

あぁ、今の自分は酷い顔をしているんだろうな。

でも、塞き止めていたものが無くなったこの感情は、涙は、もう止められない。

止まってくれないのだ。

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