拾 ページ25
「水ですかい?」
「ああ、ここら辺は人間が手をつけていない。
流れておる水も綺麗じゃろう。頼んだぞ、朧車」
「はい!お二人分!持ってまいります!!」
川の流れる方へと進む朧車を見送り、狐は桜の木の元へと戻ろうとしたその時だった。
『A』
「っ……げん、たろ…?」
後ろから聞こえる、聞き覚えのある声。
それはつい先程まで聞いていた声だが、狐には‘違う声’だというのが分かった。
狐が振り向こうとしたが、それは止められた。
『こっちを見てはいけません。どうか、そのまま聞いて下さい』
「………わかった」
何故見てはいけない。
そんな言葉を狐は呑み込み、愛しい声聴くことに集中した。
『A、確かに俺は生まれ変わった俺を愛していいと、愛して欲しいと願った。
けれど、いい加減俺と俺(彼)を重ねるのはやめてください』
「な、何故じゃ…!?
どっちもお前なのじゃろう?」
『えぇ。……でも、俺と俺(彼)とでは‘別人’なんですよ』
「別人?どういう意味じゃ、生まれ変わったのならどっちも幻太郎じゃな」
『違います』
はっきりと言い切られ、狐は口を閉じた。
けれど持った疑問は消えない。
『いいですか?A。
確かに、あそこにいる俺は生まれ変わった俺です。姿も声も全て一緒。
でも、生まれた時代も、生きてきた環境も全て違う。
人が生まれ変わった時に前世の記憶が無いのは、‘新しい自分に、違う自分’になるためなんです。
だからもう、あの子から俺の面影を探さないで……。あの子は今、苦しんでるっ…!
どうか、どうか………今の俺を見てあげて、A』
「何を……わしは、最初からお前をっ…!!」
見ている。
そう言う為に振り向いたが、そこに愛しい姿はなかった。
「……分からん。分からんよ、幻太郎。
人で無いわしには…分からんことばかりじゃっ」
何が違うのか。
容姿も声も一緒。
触れる温もりも同じ。
生まれてくる時代、生きてきた環境の違い。
そんなもの不死身である狐にとっては、理解し難い。
「…あぁ………昔から、たまに思うことがあるんじゃ。
なぁ、幻太郎…」
どうしてわしは、人で無いのか____。
「同じ人ならば…………」
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ふぃっく - 一番気になるところで終わるのがウズウズします!!!!!!ぜひ続きを書いてください! (2023年4月16日 14時) (レス) @page38 id: 634615dde5 (このIDを非表示/違反報告)
心春(プロフ) - ロールロールさん» コメントありがとうございます。最近更新出来ずに申し訳ありません…。近々更新致します。あたたかいお言葉ありがとうございます。 (2020年4月5日 12時) (レス) id: 3f9e794f84 (このIDを非表示/違反報告)
ロールロール - はじめまして!とても楽しみに更新待ってます!体調管理に気をつけてください!応援してます。頑張ってください。 (2020年4月5日 0時) (レス) id: d8adda4a88 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:心春 | 作成日時:2020年1月12日 9時