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漆ノ巻 恋歌[れんか] ページ8

平日の昼過ぎ。
この時間帯は、スーパーが割と空いている。場所によるが…。

俺は確実に暇であろう男を連れて、夕飯の食材を買いに来た。
献立を考えても思いつかないので、ならば食材から決めればいい、という考えに至ったのだ。

「俺としては、やっぱり肉が〜」

「何故、帝統のリクエストを聞かなければならないのですか」

「……せめて、ハテナくらいつけろよ。
こえーよ、その笑顔」

一歩後ずさった男を他所に、俺は綺麗に並べられている食材を見る。

野菜、魚、肉、茸……和食の定番食材はこんなところだろうか。
しかし、ハンバーグを美味しいと言ってくれた狐を思い出すと、洋食でも良いかもしれないと思えてくる。

「……そうなると、パスタ、ドリア、グラタン……ステーキ……駄目だ、レパートリーが多過ぎる…」

そもそも、狐は何が好きなのか。
こんなに悩むのならば聞いておけば…なんて思う。

「幻太郎ぉ〜、何か決まったか?」

「……決まっていたら、こんなに籠は軽くないです」

空っぽの買い物かごをゆらゆらと揺らす。

「うーん……思うんだけどよ。
アイツ、多分なんでも食べるぜ?」

「はい?急に何言っているんですか?」

「いやだからさ、Aなら何でも食べるって」

「……なんで、そんなこと」

‘当たり前みたいに’言うんだ。

「なんでって……‘幻太郎の作ったもんなら’何でも喜んで食うだろ、アイツ」

「……へ?」

「だからさ、お前が食べてもらいたいってモンを作ればいーんじゃねぇの?」

男の言葉に、強い既視感を覚えた。

‘貴殿の作ったものなら、__は喜んで何でも食べる’

誰だったか、何時だったか。
誰が、喜ぶのだろうか。

頭の中に聞こえてきた声は、‘俺’に向けて言われた言葉なのだろうか。

「……っ…」

思はず頭を抑える。
別に痛い訳ではない、けれど、石を乗せているかのように重い…。

「幻太郎、おい、大丈夫か…!?」

「あたま、が……」

「頭?痛いのか!?」

「ちが……、…」

「大丈夫ですか?」

後ろから、心配する声が聞こえた。

「なっ…なんでアンタがシブヤにっ!」

「じん、ぐうじ…寂雷……」

「挨拶は後です。
取り敢えずここから出て、外のベンチへ行きましょう」

俺は驚いた。
シブヤに、しかもスーパーに神宮寺寂雷がいたことに。

そして、そのすぐ後ろには生気を感じない少年がいたことに。

見えるようになって、思ったことがある。
この世界は、自分が思っているよりも‘人でない者が’多い…と。

壱→←肆



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ふぃっく - 一番気になるところで終わるのがウズウズします!!!!!!ぜひ続きを書いてください! (2023年4月16日 14時) (レス) @page38 id: 634615dde5 (このIDを非表示/違反報告)
心春(プロフ) - ロールロールさん» コメントありがとうございます。最近更新出来ずに申し訳ありません…。近々更新致します。あたたかいお言葉ありがとうございます。 (2020年4月5日 12時) (レス) id: 3f9e794f84 (このIDを非表示/違反報告)
ロールロール - はじめまして!とても楽しみに更新待ってます!体調管理に気をつけてください!応援してます。頑張ってください。 (2020年4月5日 0時) (レス) id: d8adda4a88 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:心春 | 作成日時:2020年1月12日 9時

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