◇陸 ページ7
眠い訳ではない。体調を崩した訳でもない。
けれど何故か、頭が上手く働かない。その原因は分かっている。
(何だったんだ…あの夢…)
昨夜見た、不思議な夢。
既視感のある場所、やり取り、そして靄がかかったように姿がハッキリと見えなかった男の存在。
今まで見てきた夢とは何処か違う。
何が違うのかは分からない。けれど、確信を持って‘違う’と言い切れるのだ。
「…あの男の名前は……何だったっけ…」
無意識に出たその言葉に、驚いた。
‘何だった’とは何だ。まるで知っていたような自分の言い草に、正直に戸惑いを感じた。
「駄目だ。気分転換に散歩でもしよう」
このまま考え続けるのは、本当に体調を崩しかねない。そうなれば、小説にも、バトルにも支障が出る。
それはどうあっても避けたい。
羽織を着て、少し冷え始めている道を気分で歩く。
落ちる葉、雲一つない青空、飛ぶ鳥達。
一つ一つを感じていくのが、いい気分転換になる。
騒がしい場所に出れば、車の音、自転車のベル、店の入店音、人々の話し声など、数え切れない程様々なもので溢れかえっている。
少し騒がしいが、これはこれで面白い。
(何だか、甘味が食べたくなったな)
突如出てきた欲求を叶えるべく、俺はいい店を探す。
甘味を食べたいと思ったが、何でもいい訳では無い。今求めているのは洋菓子だ。
ファミレスでは駄目。喫茶店でも駄目。
今はケーキ屋がいい。
「何処かにないですかね〜」
人混みによって掻き消されているであろう独り言に、返事をされた。
「なーに探してるの?」
「おや、聞いていたのですか?」
視線を少し下に持っていく。
するとそこに居たのは、可愛らしい少年…ではなく、‘成人済みの少年’だった。
「うん!バッチシ聞こえちゃった〜!
幻太郎のひ、と、り、ごーと♪」
棒付きの飴を俺に向けてくる少年に、俺は探しているものを話す。
それを聞いた少年は、いい所を教えてあげると言って先を歩く。
小さくて、人混みに消えてしまいそうな少年を見失わないように頑張って着いていった。
「ちょっと、歩くのが速くありませんか?乱数」
「え〜?幻太郎が遅いだけでしょ〜?」
不満を隠すこと無く態度に、言葉に表したそれは、紛れもない‘少年’のそれに近しいものを感じた。
「ほーらっ、早く早く〜!」
「はぁ…」
この少年に振り回されたお陰なのか、この時俺は、あの不思議な夢のことを忘れていた。
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心春(プロフ) - 向日葵さん» 向日葵さん、コメントありがとうございます。「真逆」も読んで下さり真にありがとうございます。情景が浮かぶというのは最高の褒め言葉です。物語を書いていて良かったと思いました。今後も、何度も読み返したくなるような話を書けるよう頑張ります。 (2019年11月28日 9時) (レス) id: ca589b7d76 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵 - 「真逆」から見ています。本当に文才が豊かな文章で、なん度も読み返しています。世界観が合致していて、情景が浮かぶような繊細かつ分かりやすい文章なのでとても読んでいて心地いいです!大好きです! (2019年11月28日 0時) (レス) id: fffa39b09a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:心春 | 作成日時:2019年11月4日 19時