◇参 ページ29
「……恐らくだが、いい所を見せたかったのだろうな」
「え?」
突然の発言に、間抜けな声が出てしまった。
それが思っていたよりも恥ずかしくて、裾で口元を隠す。
「Aは、普段は慕っている妖たちの手前、立派に振舞っているが実は結構子供っぽいやつでな。奥方に、格好良い所を見せたかったのだと思うぞ」
優しいその笑顔に、心が和み笑顔になった。
「もっと、俺にもそういう所を見せてくれればいいのに…」
「小官からすれば、結構見せていると思うがな」
「そうですか?」
「あぁ。特に貴殿は美しいからな。
男妖怪と奥方が一緒に居る時なんかは、尾の毛が分かりやすく逆立っている」
知らなかった。
そんな風に大切にしてくれているとは、心の底から嬉しい気持ちが溢れる。
それと同時に、さらっと美しいと言われたことに対する恥ずかしさもきた。
「う、海坊主さん、そろそろ中に入りましょうか?皆待ってますから」
「うむ、そうだな」
陽の光が届きにくい廊下を進み、賑やかな部屋へと向かう。
その部屋の戸襖を開けると、そこには魑魅魍魎たちが皆楽しく談笑をしていた。
「あ!幻太郎様ぁ〜!」
「幻太郎様!こっちに座ってくだせぇ!」
「奥様、こちらにどうぞ!」
「海坊主!こっち来て飲み比べしようぜ!」
「海坊主様!こっちで一緒に食べようよ!」
皆それぞれ二人に声をかけ、取り合い状態になる。
狐だけでなく、この二人も人気者なのだ。
「え、えっと…」
「何勝手言ってんだ、お前ら。
幻太郎は俺の隣で飯を食うって決まってんだろ」
「っ……!」
突然肩を抱き寄せられ、その知った温もりに心臓が高鳴る。
「いっつも主ばーっかり幻太郎様の隣にいて、ずるい!」
「ずるいずるい!」
小鬼たちがそれぞれ抗議するが、狐は素知らぬ振りをする。
「幻太郎、こっちに来い」
肩を抱いたまま、定位置である真ん中の席へと連れていく。
そして腰をかけ、俺はその右側へと腰掛ける。
「あ〜あ、今日も幻太郎様はそこかぁ〜」
「まぁ、仕方ないわね」
隣に座るよう誘っていた妖たちがガッカリしたように肩を落とす。
しかしそれもつかの間。
皆が揃ったということで、やっと朝餉の時間だ。
大皿に盛られたおかずをそれぞれ好きな分だけ取り、美味しそうに頬張る。
酒好きの妖は朝から飲み、どんちゃん騒ぎだ。
この社は、朝から賑やかで退屈しない。
「幻太郎様」
退屈しないが、ふと聞こえた鈴のような声に、俺は目を伏せた。
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心春(プロフ) - 向日葵さん» 向日葵さん、コメントありがとうございます。「真逆」も読んで下さり真にありがとうございます。情景が浮かぶというのは最高の褒め言葉です。物語を書いていて良かったと思いました。今後も、何度も読み返したくなるような話を書けるよう頑張ります。 (2019年11月28日 9時) (レス) id: ca589b7d76 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵 - 「真逆」から見ています。本当に文才が豊かな文章で、なん度も読み返しています。世界観が合致していて、情景が浮かぶような繊細かつ分かりやすい文章なのでとても読んでいて心地いいです!大好きです! (2019年11月28日 0時) (レス) id: fffa39b09a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:心春 | 作成日時:2019年11月4日 19時