◇壱 ページ27
襦袢から着物に着替え、厨に向かう。
そこには既に朝餉[あさげ]の準備をしていた雪女、女郎蜘蛛、骨女がいた。
「ん?あ…九尾様、幻太郎様、おはようございます」
二人の主をしっかりと確認し、丁寧に挨拶をする雪女。
「A様まで厨に来るなんて、珍しいじゃないかい?……お、美味いっ」
雪女と骨女の目を盗み、こっそりつまみ食いをしている女郎蜘蛛。
「………おはよう、ございます」
骸を模した仮面で目元を隠し、控えめな挨拶をする骨女。
「おはようございます。皆さん」
「俺は何も作れないからな、幻太郎を送りに来ただけだ。
それと、女郎蜘蛛。つまみ食いも程々にな」
狐のその言葉に、雪女が反応した。
雪女は後ろにいる女郎蜘蛛に目をやり、その美しい顔を顰める。
「刹那[せつな]!貴女はまた勝手に!」
「冷たっ!ちょっと!凍らせないでおくれよ!
背中の脚が駄目になったらどうすんのさ!」
「八本もあるんだから一本くらい平気でしょ。
嫌だったらつまみ食いを辞めなさい!」
「蜘蛛は脚八本あってこそよ!?」
二人が揉めているのを気にもせず、骨女は主の一人に声をかける。
「あの……幻太郎様、まだ、元気ない…ですか?」
「いえ、そんなことは…」
「骨女、幻太郎はまだ本調子じゃない。細かに見てやってくれ」
「A!」
「………それじゃ、俺はいつもの場所にいる。
朝餉が出来たら呼んでくれ」
そう言って狐は厨を出ていった。
今のやり取りに、揉めていた二人も静かになり様子を伺う。
「……すみません、朝から大きな声を出して」
「い、いえ」
沈黙が続く。
雪女も骨女も何と声をかければ良いのか分からないのだ。
しかし、こういった空気が苦手な女郎蜘蛛は違った。
「ほら!しんみりしてないで朝餉を作るわよ!ここの男どもは幻太郎様を除いて皆よく食べるんだから、たんまり作ってやらないと!」
手をパンっ叩き、その場の空気を変える。
「女郎蜘蛛の言う通り……作らないと……」
「そうね。さ、幻太郎様も作りましょう」
「あ、は、はい!」
この社の厨は女妖怪三人が主に回している。
しかし、社の主である狐が人間の男を娶ってからは、この厨は三人の妖と一人の人間が回している。
今日も厨からは、空腹を誘ういい匂いが香っている。
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心春(プロフ) - 向日葵さん» 向日葵さん、コメントありがとうございます。「真逆」も読んで下さり真にありがとうございます。情景が浮かぶというのは最高の褒め言葉です。物語を書いていて良かったと思いました。今後も、何度も読み返したくなるような話を書けるよう頑張ります。 (2019年11月28日 9時) (レス) id: ca589b7d76 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵 - 「真逆」から見ています。本当に文才が豊かな文章で、なん度も読み返しています。世界観が合致していて、情景が浮かぶような繊細かつ分かりやすい文章なのでとても読んでいて心地いいです!大好きです! (2019年11月28日 0時) (レス) id: fffa39b09a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:心春 | 作成日時:2019年11月4日 19時