◇捌 ページ24
「救ってもらったその日に、名前を貰えなかった鈴に名を与えてくれました。本当に嬉しかった…。
でも、鈴の病が治ることはなく…一月も持たずに鈴は息絶えました」
幼子だった座敷童子は思い出す。
死の間際に見た‘親になってくれた’二人の顔を。
短い時の中で、確かに幼子にとっては親だった愛しい存在を。
「鈴、何故泣いているんですか…?
どこか具合が悪いとか!?」
「………いえ」
やっぱり聞こえていない。
知っていて話したはずだったのに、分かっていたことなのに、余計に涙が溢れ止まらなかった。
「すず?」
「幻太郎様…………いや、お、かあ…さん……」
座敷童子が一度言ってみたかった言葉だ。
座敷童子はゆっくりと近寄り、愛しいその胸に倒れ込んだ。
「鈴?………大丈夫、俺はお前の傍に居るよ」
大きい手が頭を撫でる。
‘前とは違えど’、その温もりは変わっていない。
「やっぱり、幻太郎様の手は暖かいです…」
救ってもらった命。
けれどそれは儚く、あっという間にその灯火を消した。
二人の傍に居たい。
その想いが強かったのか、再び生を受けた幼子。
しかしそれは人ならざる者、座敷童子。
驚きはしたが、何故という疑問はなかった。それはきっと、狐様のせいだろうと思ったのだ。
妖に、座敷童子になった自分を見たら驚くだろうか。…喜ぶだろうか。
早く会いたい。
その一心で、社に向かった。
しかし、時の流れというのは残酷で…
「お前さんはっ…………すまん、幻太郎なら________」
「………え…?」
‘母’には会えなかった。
困惑した。絶望した。懇願した。
何故生まれ変わったのか。
何故この時代なのか。
会いたい。会わせて欲しい。会わせて下さい。
「お鈴、お前さんに頼みたい事がある」
「頼みたい事?」
「まだ幼い我が妻を、傍で見守ってはくれぬか」
(あぁ…言葉を交わせないのがもどかしい…)
座敷童子はその胸に擦り寄り、短い腕を背に回す。
「……少し、落ち着きましたか?鈴」
座敷童子は頷いた。そして顔を上げ…。
「ありがとう、おかあさん!」
聞こえていなくとも、それでもちゃんと言いたい。
幼子は、満面の笑みを仮の母だった者に見せた。
「あ……今、声が、聞こえた気がした……」
『美しい、鈴の音色のような…そんな声だ』
あぁ、全く同じことを言っている。
昔の姿と今の姿が、座敷童子には重なって見えた。
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心春(プロフ) - 向日葵さん» 向日葵さん、コメントありがとうございます。「真逆」も読んで下さり真にありがとうございます。情景が浮かぶというのは最高の褒め言葉です。物語を書いていて良かったと思いました。今後も、何度も読み返したくなるような話を書けるよう頑張ります。 (2019年11月28日 9時) (レス) id: ca589b7d76 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵 - 「真逆」から見ています。本当に文才が豊かな文章で、なん度も読み返しています。世界観が合致していて、情景が浮かぶような繊細かつ分かりやすい文章なのでとても読んでいて心地いいです!大好きです! (2019年11月28日 0時) (レス) id: fffa39b09a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:心春 | 作成日時:2019年11月4日 19時