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◇漆 ページ23

木々の隙間から差し込む、茜色の光。
それは大きいとは言えない布に包まれた幼子を照らしていた。

幼子の顔色は青白く、その命が尽きかけている事がわかる。

「……おっかさ……おとっちゃ……」

か細く小さな声で親を呼ぶが、帰ってくるのは葉の揺れる音。

このまま死ぬんだ。

幼いながらに察した己の最期。
殆ど開いていなかった目を閉じたその時だった。

「なっ……こんな所になんで…!」

誰かの声が聞こえた。
しかしもう目を開けられない。その力がない。

声も遠のくその中で、最後に感じたのは誰かの温もりだった。

そしてそのまま、意識を手放した。


声が聞こえる。

そう思って幼子が目を開けたのは、それから三日がたった頃だった。

「…ん」

「ん?……あら、目が覚めたのね。良かったわ」

すぐ横に座り、顔を覗き込む真っ白な美しい女性。
安心したのか、胸に手を当てふぅっと息を吐いた。その瞬間、少し寒気がした。

「起きようとしては駄目よ。今幻太郎様を呼んでくるから待っててね」

幻太郎様とは誰なのか。
聞く前に女は部屋から出ていってしまった。

それから数分もしない内に、今度は男が二人入ってきた。

「目が覚めて良かった!
俺の声は聞こえますか?見えてる?喋れる?」

先程の女が座っていた場所に座ったかと思うと、男の一人が凄い勢いで話しかけてくる。
幼子はそれに驚き、布団を頭まで被ってしまった。

「あっ…」

「くくくっ、お前が執拗いから隠れてしまったな」

「し、しつこかったですか?
御免なさい、目が覚めたと聞いてつい舞い上がってしまって…」

男の申し訳なさそうな声を聞いて、目だけ布団から出す。
そこにはしょげている男と、その後ろで楽しそうにしている男がいた。

「……だれ、ですか?ここは、どこ、ですか?」

喋るというのはこんなに疲れるものだったか。
そう思うほどに、口を動かすのが大変だった。

「ここは我らが住まう社だ。そして我が名はA。この社の守り神ってことになってるな」

驚いた。そこにいたのは‘村の神様’だったのだ。
幼子は驚きを隠せない状態で、目の前の男を見た。

「俺は幻太郎。同じくこの社に住んでるけれど、君と同じ人間です」

「そして我が妻だ」

幼子は、とんでもない所にいて、とんでもない方々に命を救われたのだと理解した。
驚愕、困惑、恐怖。
様々な感情が出てくる。けれど、それよりも大きい感情が一つだけ。

「た、たすけてくれて……ありが、とう、です」

救ってくれたことによる感謝だ。

◇捌→←◇陸



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心春(プロフ) - 向日葵さん» 向日葵さん、コメントありがとうございます。「真逆」も読んで下さり真にありがとうございます。情景が浮かぶというのは最高の褒め言葉です。物語を書いていて良かったと思いました。今後も、何度も読み返したくなるような話を書けるよう頑張ります。 (2019年11月28日 9時) (レス) id: ca589b7d76 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵 - 「真逆」から見ています。本当に文才が豊かな文章で、なん度も読み返しています。世界観が合致していて、情景が浮かぶような繊細かつ分かりやすい文章なのでとても読んでいて心地いいです!大好きです! (2019年11月28日 0時) (レス) id: fffa39b09a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:心春 | 作成日時:2019年11月4日 19時

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