◇参 ページ19
狐は一人、月を見て酒をあおる。
辺りは静まり木々すらも眠りにつく時間、丑三つ時にだ。
しかしそれも昔のこと、今では丑三つ時関係なく人が多い。
町は明るく、月以外の星はほぼ見えない。
「……変わってしまったのぉ」
杯に写り込む月を、寂しそうに見る。
何杯か飲み、そろそろ狐も眠りにつこうとしたその時だった。
「ここに居られましたか、九尾狐様」
「……山天狗[やまてんぐ]か」
いつの間にか狐の目の前にいた男。
長身の男前だが、背には翼があり、見るからに人間では無かった。
「珍しいのぉ。お前さんがここまで降りてくるなんて」
「貴方様が突然居なくなられたので、様子を見に参りました」
山天狗は片膝をつき、頭[こうべ]を垂れる。
それはこの狐よりも己が下だという証明であり、忠義の証だ。
「突然?わしは予め、暫しあの場を離れることは皆に言っておったぞ」
「え?」
狐の発言に驚いたのか、山天狗は下げていた頭を上げ驚いた顔で狐を見る。
「…まさかお前さん、誰にも教えて貰ってないのか」
「………その様です」
山天狗は再び頭を下げたが、その様子は何処か悲しそうだ。
「やはり私は、皆に嫌われているのでしょうか…」
「何を言うとるんじゃ。お前さんは愛されとるよ」
「しかし……また私はこうして…」
「皆、純粋なお前さんの反応を見るのが好きなんじゃよ。前に狒々[ひひ]が言っていたぞ、山天狗を揶揄うと予想を上回る反応を返してくれるのが面白い、とな」
「狒々が、そんなことを…」
山天狗は再び頭を上げ、狐を見た。その表情は何処か嬉しそうだ。
「くくくっ、お前さんそれで喜んでたらまた揶揄われるぞ」
「っ……嫌われていないと知って、嬉しくて」
笑顔をみせる山天狗に、狐は微笑ましい気持ちになった。
しかし山天狗は本来の目的を思い出したのか、直ぐに真面目な顔を見せる。
「危うく忘れてしまうところでした。九尾狐様、私は先程申したように貴方様がここにいる事情を知りません。
面倒ではありますが、お教え下さると有難いです」
山天狗は両膝をつき、手を揃え、深く頭を下げた。
「ふむ、では話そう。
しかしそこでは落ち着かんじゃろう、わしの隣に座って聞くが良い」
「と、とと隣ですか!?そ、そんな恐れ多いです!!」
「なに、わしが来いと言うとるのじゃ。はよ来い」
狐は己の隣をトントンっと手で叩く。
山天狗は渋々立ち上がり、移動した。
「し、失礼します…」
「うむ、では……
昔話から始めるとしようか」
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心春(プロフ) - 向日葵さん» 向日葵さん、コメントありがとうございます。「真逆」も読んで下さり真にありがとうございます。情景が浮かぶというのは最高の褒め言葉です。物語を書いていて良かったと思いました。今後も、何度も読み返したくなるような話を書けるよう頑張ります。 (2019年11月28日 9時) (レス) id: ca589b7d76 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵 - 「真逆」から見ています。本当に文才が豊かな文章で、なん度も読み返しています。世界観が合致していて、情景が浮かぶような繊細かつ分かりやすい文章なのでとても読んでいて心地いいです!大好きです! (2019年11月28日 0時) (レス) id: fffa39b09a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:心春 | 作成日時:2019年11月4日 19時