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◇肆 ページ15

天井から垂れてきた水滴が湯船に落ち、ちゃぽんっと音が鳴る。
俺は肩まで湯に漬かり、ふぅっと息を吐いた。

「やっぱ、お風呂はいいなぁ…」

湯に浸かって身体を清めるというのは、日本ならではだ。海外では殆どがシャワーのみで済ませる。

そして風呂場というのは完全に一人の空間。
誰にも邪魔されることが無いため、心から休まることが出来る。

けれど一人になると、色々と思い出し考えてしまうものでもある。
今日あった出来事を、順に、なるべく鮮明に思い出す。

「……キス、しちゃったな」

何処か他人事のように言うが、己の唇を触り、あの時の感触を思い出す。
柔らかい唇、自分よりも大きい口。
触れるだけのものだったが、それでも‘喰われる’のではと思うくらいだった。

何故キスをしたのか、なぜ受け入れたのか。

「……何処か懐かしい感じがしたのは、何でなんだろ」

俺の名前を呼ぶ時の声が耳に馴染んでいるのは、何故なのか。

俺を見るあの目があんなにも優しいのは、何故なのか。

(思い、出せない……)

何故、‘忘れている’と思うのか。

心の内に大切に抱えている箱が、少し音を立てた気がした。

参ノ巻 縁[えにし]→←◇参



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心春(プロフ) - 向日葵さん» 向日葵さん、コメントありがとうございます。「真逆」も読んで下さり真にありがとうございます。情景が浮かぶというのは最高の褒め言葉です。物語を書いていて良かったと思いました。今後も、何度も読み返したくなるような話を書けるよう頑張ります。 (2019年11月28日 9時) (レス) id: ca589b7d76 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵 - 「真逆」から見ています。本当に文才が豊かな文章で、なん度も読み返しています。世界観が合致していて、情景が浮かぶような繊細かつ分かりやすい文章なのでとても読んでいて心地いいです!大好きです! (2019年11月28日 0時) (レス) id: fffa39b09a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:心春 | 作成日時:2019年11月4日 19時

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