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◇壱 ページ2

そんな不思議な体験をしても、歳を重ねれば忘れてしまう。それが人間だ。

あの時の事を忘れ、今は小説家として、そしてディビジョン代表チームの一人として、日々を過ごしていた。

少年のような容姿だが、同い年のチームリーダー。
若くしてイバラの道を進む、常に金なし家なしのギャンブラー。

その二人と出会ってからの日々は、とっ拍子の無い物語のように変わった。
今まで以上に疲れを感じる事が増えたが、それも振り返ると、まぁ退屈しない。

「……もうすぐで十二時。そろそろ来ますかね」

これから起こることも、変わった日々の内の一つ。
台所に向かい、冷蔵庫や棚の中を確認する。それを終えると、何事も無かったかのように縁側に座る。

そして十分もしない内に、足音が聞こえてきた。

「おっいたいた。ゲンタロー!」

声の主は、敷地に入ってくるなりそのまま縁側に向かってくる。
俺は素知らぬ振りをして、次の言葉を待った。

「幻太郎……俺に、飯を恵んでくれ!!!」

物凄い勢いで土下座をする彼を横目で見て、やはり…と思わず笑みが零れた。

「ゲンタロ?何を言っているでありんすか?わっちはしがないギャンブラー、有栖川帝統と」

「そういうのはいいからさ、飯!頼む!!
昨日の朝から何も食ってねぇんだよ〜!!」

頑張って出した可愛らしい声も、女性のような仕草も、この男には見慣れたものになってしまったようだ。

「一昨日貸したお金はどうしたんですか?三万程渡したでしょう」

「あー…それは」

頭の後ろで手を組み、目を合わせようとしない。なんとも分かりやすい男だ。

「全部摺ったんですね」

冷たく、突き放すように言ってみる。

「あ、あはは〜!いい所までいったんだけどよ、最後の最後で負けちまってさぁ〜!」

何度聞いたか分からないその台詞に、思わずため息が零れた。

「……哀れな哀れな帝統に、ご飯を恵んであげてもいいです」

「ホントか!?」

「ですが、その代わりに……」

俺を見上げる彼の頬に手を添え、熱い視線で見詰める。
そして艶っぽく、俺は囁いた。

「小生と、寝てくださいません?
そしたら、好きな物なーんでも作ってあげます」

「は……はぁ!?ちょ、お前…何言って!」

顔を青くして慌てている様子を見て、予想通り、と俺は心の中で笑う。

「……なんて、嘘ですよ」

今や決まり事になったこの台詞を言って、離れる。

「あ………せったぁ!!!」

「ほんと、帝統は揶揄いがいがありますねぇ〜。
ほら、ご飯作ってあげますから上がってください」

本当に、毎日が退屈しない。

◇弐→←壱ノ巻 再開



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心春(プロフ) - 向日葵さん» 向日葵さん、コメントありがとうございます。「真逆」も読んで下さり真にありがとうございます。情景が浮かぶというのは最高の褒め言葉です。物語を書いていて良かったと思いました。今後も、何度も読み返したくなるような話を書けるよう頑張ります。 (2019年11月28日 9時) (レス) id: ca589b7d76 (このIDを非表示/違反報告)
向日葵 - 「真逆」から見ています。本当に文才が豊かな文章で、なん度も読み返しています。世界観が合致していて、情景が浮かぶような繊細かつ分かりやすい文章なのでとても読んでいて心地いいです!大好きです! (2019年11月28日 0時) (レス) id: fffa39b09a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:心春 | 作成日時:2019年11月4日 19時

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