1 はるいちばん (side 中間) ページ2
｢おはよう、淳太くん！｣
｢…神ちゃん、おはよう……｣
少し大きめのピアスが、神ちゃんの耳元で揺れている。
片耳にしかつけてないとはいえ、水晶のピアスなんて重たないんかなっていつも思う。
｢まだちょっと力が出にくいやろ？｣
｢ん、ぼーっとしてる感じやわ｣
｢もうすぐ照史くんが眠る頃やから、それまで我慢してな｣
｢分かってるよ、大丈夫｣
そう言ってもう一度見やると、さっきまでほんのり春色をしていた水晶がただの透明に戻っていた。
起きる、眠る。
神ちゃんが言うものは、睡眠を意味しない。
いま俺が起こされたのは、チカラや。
｢準備は出来てるから、いつでも巡れるで〜！｣
｢毎年ありがとう。じゃあ今夜にでも出るか…｣
｢おん！｣
そのチカラを、この土地に住む人間は｢四季｣と呼ぶ。
俺はこれから土地を巡り、春をもたらすんや。
それが仕事。
それが、俺の存在する意味。
｢見て淳太くんっ、今年はヒガンザクラでお着物を仕立ててみました｣
｢おぉ〜！ええ柄やね。んじゃ着付けお願いできる？｣
｢任せて！｣
しゅるり、しゅる、と小気味良い音を立てながら、俺の肌にヒガンザクラが纏われてゆく。
もちろん着付けは自分で出来る。巡りはじめたら全部一人でせなあかんからね。
それでも神ちゃんにやってもらうのは、おまじないをかけてもらう為。
｢今年も、良い春になりますように｣
｢ふふ、がんばります｣
｢ちゃんとここに帰ってきてね｣
｢おん、もちろん！｣
袂をピッとととのえて、その中に水晶をひとつ転がした。
ピアスのものよりふた回りほど小さな水晶。
これは神様からの贈り物や。
｢そや、あいつは？｣
｢今日はお店に出てる。巡るまえにお声掛けしてあげて？寂しがってたから｣
｢はは、あいつ俺のこと好きやからなぁ｣
日が暮れて、神ちゃんの美味しい料理をみんなと囲めば、あっという間に出かける時間。
持ち物は巾着ひとつ。それだけ。
人間じゃないから寝食は必要不可欠ではないし、持って行くとするならば神ちゃんのつくったお守りくらいで……いや、またスマホが入ってる。どうりでお守り以上の重みを感じる訳や。
｢崇裕がね、写真まってるって｣
｢はいはい…｣
｢桜が見たいんやって！｣
｢近所にいっぱい咲くやんか……まぁ、去年のでっかいカメラよりはマシやわ｣
玄関先まで見送りに来てくれた神ちゃんに手を振り、
まだ少し冬の香りを携える風に乗り込んだ。
『淳太、春をよろしくね』
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杏子(プロフ) - ebifuraistar73さん» コメントありがとうございます。そう言って頂けて嬉しいです！また少し待たせてしまうかもしれませんが、ゆっくり更新していきますのでこれからもよろしくお願いします！ (2018年3月13日 14時) (
レス) id: f0bc5c27fe (このIDを非表示/違反報告)
ebifuraistar73(プロフ) - 待ってました！公開する季節、ぴったりですね。ありがとうございます。 (2018年3月13日 6時) (レス) id: 747d322e1b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：杏子 | 作成日時：2017年9月6日 19時
