20 ページ20
田中くんと京本先輩と別れて、松村くんと歩き出す。
もうこの時間は薄暗くて、少し肌寒い。
特に喋ることもないし、黙って歩いてたら、松村くんが急に立ち止まった。
「どうしたの？」
電線に止まったカラスが私達の沈黙を埋めるように鳴いた。
「ココア買う」
鞄から財布を出してチャリチャリと自販機に入れてボタンを押す。
ガタン、と落ちてきたココアを取らずに、もう1回押す。
ガチャガチャと取り出して、一個を私に差し出した。
「ん」
「え、いいの？」
「俺ふたつ飲めないから」
じゃあふたつ買わなきゃいいのに、と言うのは意地悪な気がしたから受け取る。
「ありがとう」
甘いものが苦手な私は、低糖と書かれたシンプルなココアが嬉しかった。
松村くんがおもむろに隣のベンチに腰掛けたので、なんとなく私も隣に座る。
「っあつ」
「そりゃそうだよ」
開けてから、穴から息を細く吹きかけると湯気が沸いてきた。
「…京本と部活が一緒だったとか？」
「中学の頃の話？」
「あいつ殆ど学校行ってなかったからなんでAさんと接点あるのか気になって」
｢あー、何回か話したことあるだけだから｣
｢…へえ｣
松村くんはそれから変に掘り下げることなく、普通に変わらず最近の京本先輩事情やテストの点数が奮わなかったこと、読み終わった本の感想を他愛も無く話した後、しっかり私を家の前まで送ってくれた。
「本当にありがとう、家の前まで」
「別に気にしないで。」
じゃあ、と言って家の中に入ろうと背を向けると、急に手首を掴まれた。
「っわ」
「あっ、ごめん」
少しよろめく私を支えつつも戸惑ったような松村くんに違和感を感じる。
なんだか、焦ったような、心配してるような、初めて見る顔で私を見つめていた。
「ビックリした…どうしたの」
じんわりと血が溜まって温かくなる手首。
松村くんは、それを段々緩めながら目を泳がせた。
「…いや、あ、この前借りた本明日返すわ」
「？わかった。別に急がなくてもいいけど」
「いや、返す。今日には読み終わるから」
「あ、そう、じゃあ、おやすみ」
部屋の中に入って、しばらくドアにもたれかかる。
数秒後に足音が遠ざかって行ったのを確認して、私は鍵を閉めた。
そんなにあの本の感想言いたいのかな。
私にも、多分松村くんにも、分からないことだから考えるのをやめた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1163人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：春野 | 作成日時：2021年12月10日 21時
