證苓サ「 ページ18
歯を食いしばって、堪えるように眉をゆがめていた。なのに、私に向いた瞳は優しかった。
「にげて」
「、」
「追手がもう、そこまで来ています。っはぁ、僕はもう走れない」
そこでやっと私はトウヤの服が黒いシミを作り、そして。身体に空いた穴の数を知る。私は咄嗟にトウヤに触れようとしたけど、それを彼は拒んだ。
「ふは、治そうたって無駄ですよ。そんなことすれば死ぬのは貴方だ」
「でもっ」
「僕がなんで貴方を連れ出したのか、まだ分からないんですか?」
そう言われてしまったら、私は黙る他ない。トウヤは何故か笑っていた。傷だらけなのに、私のせいで死ぬのに。私が触ることを拒むくせに、トウヤは私の頬を指先で撫でる。形を確かめるように。温度を、感じていた。
「最後に見るのは貴方の笑顔がいい。ほら、大丈夫。僕がいなくても貴方は笑えますよ。……だから逃げて。僕を置いて逃げれば貴方だけは助かるかもしれな、」
「いや」
「、」
「いや!」
私はそれだけしか言えなかったけど、トウヤを止めるには十分だった。
「わたし。トウヤがいなきゃ、笑えない」
彼はキョトンとする。そして私の瞳を見て、ふと泣きそうな顔をした。でも泣かなかった。堪えて、また笑う。
いつも折れるのはトウヤの方に決まっていた。
「あはは、仕方のない人ですねぇ。じゃあ二人で、地獄でもどこでも行きましょうか」
その時だった。
_____ダン。
身体が勝手に倒れる。トウヤの横に並ぶように、視界が私と垂直になった。え、と思う前に。腹部が酷く熱くなって、全身が麻痺したみたいに動かなくなった。触ると、赤い。
血だ、私の。
その瞬間、死ぬんだって分かった。今までの嘘みたいに調子が良かった身体が元に戻ったみたいに、途端にあちこちが悲鳴をあげる。魔法が解けたみたいだった。
「……とぉや?」
悪あがきみたいに名を呼ぶ。でも、もうそれ返す体力も彼にはなかったようだ。………ダメだって思った。それが最大の過ちだったのに。
死んじゃダメ、トウヤ。死なないで。まだ、やだ!やだやだやだ生きて!貴方は。貴方だけは!!
生きなきゃ。
少し腕を伸ばせば触れる距離だった。指先で輪郭をなぞる。少し顔を寄せれば、そこに彼はいた。確かに力が吸い取られる感触はあるのに、トウヤは目を開けない。傷も治らない。
でも。私は段々眠くなってしまって、とうとう目を閉じた。それは、私の命が尽きる合図だった。
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シィ(プロフ) - きゃーなんて綺麗な声ではなく悶えるような声を発しながら楽しく読んでいたら気づけば無言で涙ボロボロで読んでました。後日談とか勝手に考えてさらにもーッ!!!って気分です。最高でした。 (4月2日 2時) (レス) @page49 id: 45c181e6d5 (このIDを非表示/違反報告)
あや(プロフ) - 数時間で一気読みしました。長い長い映画を見たような気分で、ずっと泣いています。「二次創作」や「夢小説」の一言で片付けるにはあまりに勿体ないほどの作品でした。本当にこの作品に出会えてよかった! 現世でも来世でも、さくらもちに幸あれ!! (3月28日 23時) (レス) id: 50bb1a18fa (このIDを非表示/違反報告)
紫月とと - 初めて拝見してから一気見をしてもうボロボロと泣きっぱなしでした笑 こんなにも綺麗な恋があるのだろうか、と夢を見させて頂きましたし、何よりも二人の気持ちが尊すぎました😿🤍 さくらもちに永遠の幸あれ! (3月28日 15時) (レス) @page49 id: 5d87268641 (このIDを非表示/違反報告)
なえ(プロフ) - コメント失礼します。今日(昨日)初めて見てそのまま一気見したのですがここまで大号泣した夢小説は初めてです。軽い気持ちで臨んだのに…とてもよかったです。さくらもちお幸せに! (3月25日 1時) (レス) id: a0bf3e5ea8 (このIDを非表示/違反報告)
るるなる(プロフ) - 完結おめでとうございます、今目の前が見えないぐらい号泣しているのですが、、。幸せな気持ちでいっぱいです。長期連載お疲れ様でしたこれからも何回も見返します。そしてこれからも150年も幸せであれ!さくらもち!! (3月6日 21時) (レス) @page49 id: e4083c598e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴた | 作成日時:2023年11月19日 17時