光と闇 ページ42
Side:立花いづみ
「その時だった。あの男…神木坂レニがAに手を差し伸べたのは」
「…GOD座の主宰か」
大沢さんは口調を普通に戻し、語気を強めて名前を呼んだ。
あの人に良い思い出はないけれど役者を目指しているAくんには運命的な機械のように思える。
「GOD座に誘われたってAは嬉しそうだったよ。…でも実際はただの雑用扱いさ」
「失礼だが、才能がなかったから舞台に立てなかったとかではないのかね?」
「それはない。こっそり稽古を見に行ったことがあるけどAは飛びぬけて演技が上手かった」
「それじゃあどうして…」
大沢さんの言う通り、彼は演技が上手かった。
繊細な身のこなしと表情、感情の込め方もプロ並みとまではいかないにしろ、一般人のそれではなかった。
「神木坂はAのことを「見世物」としか考えてなかった」
「客の呼び込みやストリートACTばかりで舞台になんて一度も立てなかった。…疑問に思った俺は直接問いただそうと思って劇場に行ったらさ…血の繋がってない父親と電話で話しているのを聞いたんだ」
その2人が繋がっていたということは、Aくんが舞台に立てなかった理由は裏で話が進んでいたんだろう。
それを聞いた大沢さんはどれほど辛かったんだろう。
「…それで全て知ったよ。Aを舞台に立たせる気なんて少しもなかった__それどころかアイツを見世物にして客寄せに使い、売上金の何割かを神木坂が渡すっていう取引だった」
「なんて酷いことを…」
「許せねえ」
それぞれに苦しい表情を浮かべる。
そんなに辛い過去があったなんて、少しも知らなかった。
…こんなの、話したくないと思うのも無理はない。
「俺は全てをAに話した。……アイツは何も言わず、ただ一言__」
『何でお前が泣きそうにしてるんだよ』
「え……A、?」
カフェの方の扉を見ると、そこにはいつもと変わらないAくんの姿があった。
言葉の厳しさとは裏腹に、大沢さんへの優しさを感じる柔らかい声だ。
「も、戻って来て、くれたのか…」
『……やっぱりさ、逃げてばかりじゃかっこ悪いだろ?』
「そんなことっ、」
『俺も立ち向かうことにしたよ。ハル、お前みたいにさ』
行方不明になる前とは唯一違う、目には光が宿っていた。
■■
633人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「男主」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あーか(プロフ) - 続き楽しみにしてます。 (2020年4月3日 17時) (レス) id: 460cee1a24 (このIDを非表示/違反報告)
哲弥 - あの…もう終わりですか? 俺楽しみにしてるんで、頑張ってください! (2019年6月6日 17時) (レス) id: 9dda0ba0f7 (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - ひなさん» ありがとうございます!精一杯書かせていただきます! (2017年9月6日 21時) (レス) id: 77b318de68 (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - サカナさん» ありがたいお言葉…励みになります!ありがとうございます! (2017年9月6日 21時) (レス) id: 77b318de68 (このIDを非表示/違反報告)
ひな - 続きとっても楽しみです!頑張ってください! (2017年9月6日 18時) (レス) id: 9dcf28c287 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ノア | 作成日時:2017年6月7日 22時