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晴太は銀時の言葉に背を押され、日輪と共に城を駆け回る。
しかし、八年前の罰として腱を切られてしまった為、自力では歩けなくなってしまった。
晴太が背負ってでも逃げようとすると、手を貸してくれたのは月詠に味方した百華の者達だった。
日輪の体力は明らかに衰えており、支えられているだけでも息を切らすほどだった。
「日輪様もう暫しの辛抱です!お気をしっかり!!!」
晴太は先頭を走っているが、日輪の息の粗さが気になってしまう。
「いたぞ!!!反逆者共だ!!!」
前方から鳳仙に与する者達が襲ってくる。素早く百華の者達が攻撃を受け、日輪を階段下へと避難させた。
晴太も日輪を護るように立ち塞がる。
あらゆるところで薙刀や刀がぶつかる音が響いた。
「……こりゃ逃げ切れるもんじゃないね」
その様子に日輪は苦笑した。明らかに自分が足を引っ張っていると。
そして、一つの決意が出来た。
「晴太、あんただけでも行っとくれ」
「母ちゃん!!!」
また自分だけでも逃げろと言うのか。晴太は焦って叫ぶと、日輪は力強い笑みを浮かべたのだ。
「安心しな。お前だけ逃げろなんてもう言わない」
「……っ」
「戦おう一緒に。
やっと、その言葉を聞けた。
晴太は潤んだ目を拭い、力強く頷いた。
「晴太、今のうちに管制室へ急ぐんだ」
「管制室?」
晴太の復唱に日輪は頷いた。
日輪はここに残り、可能な限り敵を引き付けると言う。
日輪の存在はやはり鳳仙が喉から手が出るほど欲する存在。鳳仙に与する者も日輪を傷つけることはないだろう。
鳳仙と戦っている銀時も月詠達も体力の限界は近い。銀時に至っては何度も鳳仙の攻撃を喰らっている。
恐らく何人束になろうと鳳仙を倒すこと自体難しいのだ。
しかし、決して歯が立たないわけではない。
夜王鳳仙が何故この地下深くに吉原を築いたか。
夜兎という存在を知っている者であれば自明だ。
ここは誰の為の桃源郷でもない。
鳳仙が陽の光から逃げるために作った、鳳仙だけの桃源郷なのだ。
鳳仙は誰よりも太陽を憎み、恐れていた。
「ただでさえ陽を嫌う夜兎。それも何年も陽を浴びていない夜兎が太陽の下にさらされれば、どうなるか」
「……勝てるかもしれない」
「えぇ」
この吉原が築かれる前、ここは幕府の艦船を製造していた造船所であった。
暗くて見えないが船を出し入れするハッチが存在している。
「晴太、管制室へ行くんだ。そこへ行けばこの鉛色の空をこじあけられる」
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月見ソウ(プロフ) - 萩月さん» 萩月さん、コメントありがとうございます!遅れてしまってすみません。一気に読んでくださったこと、可愛いと感じてもらえてとても嬉しいです。これからもよろしくお願いします。 (1月13日 6時) (レス) id: 5772551842 (このIDを非表示/違反報告)
萩月(プロフ) - 面白くて一気に読んじゃいました、不器用ながらも喜杏ちゃんを可愛がる銀さんや甘えたな年頃の喜杏ちゃん等、ニヤケが止まりません!続きを楽しみにしてます。年明け早々色々ありましたが作者さんも無理せず頑張ってください、これからも応援しております。 (1月3日 15時) (レス) id: 18ce4c7edf (このIDを非表示/違反報告)
月見ソウ(プロフ) - 蛙好きさん» 蛙好きさん、コメントありがとうございます!一気に見てくれたんですか!?嬉しいです、ありがとうございます。一月下旬当たりにここに戻りたいと思ってるので、申し訳ないですがもう少しお待ちください。これからもよろしくお願いします。 (12月26日 16時) (レス) id: 5772551842 (このIDを非表示/違反報告)
蛙好き(プロフ) - 夜中一気に見ちゃいました、続き楽しみにしています (12月23日 2時) (レス) @page46 id: 7bb3646af7 (このIDを非表示/違反報告)
月見ソウ(プロフ) - 甚嘉さん» 甚嘉さん、コメントありがとうございます!成長は特に意識して買いてるので感じてもらえて凄く嬉しいです。少し更新速度落ちてますが、頑張ります!よろしくおねがいします。 (9月25日 23時) (レス) id: 5772551842 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:月見ソウ | 作成日時:2023年9月4日 0時